金色の出会い⑪
アリアさんと共に街を歩いてウィンドウショッピングを楽しみつつ、他愛のない雑談をする。いまは少し前にアリアさんが使った音に関する能力について、俺が質問している感じだ。
「アリアさんって、音に関することなら基本なんでもできるんですか?」
「ええ、そういう認識で問題ありませんよ」
「例えば、音速で移動したりとかも?」
「……ええ、まぁ、できますね」
「なるほど、それはかなり強そうですね。音での攻撃は音速なわけですし……」
「……」
音速移動というのはバトル系ではよく聞く強能力である。秒速約340mのスピードは凄まじいだろうし、アリアさんもさぞ強いのだろうと、そう思ったのだが……なんとも微妙そうな顔をしていた。
その様子に俺が首を傾げると、アリアさんは苦笑を浮かべつつ説明してくれる。
「いえ、確かに一般のレベルから見れば音速というのは凄まじいですが……爵位級レベルで言うと、あまりにも遅いので、男爵級でも音速に到達できないのは少数ですし、そういう方々はスピードの代わりに他の能力が優れていたりするものなので……速度に優れた方なら、男爵級でも音速の数十倍で移動できますね」
「あっ、なるほど、そういえば伯爵級は下位でも光速に対応できるとか、そんな話はチラッと聞きましたね」
たしか、リリアさんの反応速度とかの話がでた際にアリスから聞いた覚えがある。確か当時はまだリリアさんが伯爵級レベルに到達してない時だったが、その時でもアリスいわくリリアさんの視認可能速度は2億分の1秒で反応速度は1億分の1秒というレベルで、もちろん魔力による強化込みではあるが、光の速度にはやや対応が遅れるぐらいのレベルだと聞いた。
いまはもう伯爵級レベルに到達しているので、もっと遥かに早いだろうし……伯爵級最上位や公爵級、六王たちはさらに次元が違う。
光の10倍の速度まで見える眼鏡でも、ゆっくり目に動いているアイシスさんを捉えきるのは難しいレベル……六王レベルって、改めて凄まじすぎる。
「ええ、なので音の攻撃はむしろ遅いです。ただ、魔力である程度察知できるとはいえ、音は目視出来ないので有効に使える場面は多いですね。設置して罠にしてもいいですし、空間に音を反響させて死角を消したり、相手の平衡感覚を乱したりと応用の幅は広いで……ただまぁ、直接戦闘では遅いのが実情ですね。私もこう見えて爵位級ですので、音より遥かに早く動けて……」
「光速に届くレベルとかですか?」
「……あっ、いえ、ちょ~っと光速は遠いかなぁと……音の10倍ぐらいならなんとか、それ以上は少し厳しいですね」
「なるほど、でも俺から見ると音の10倍でも十分すぎるぐらい凄いですよ」
「ふふ、ありがとうございます。カイト様の周りには凄まじい方がたくさんいるので、ガッカリさせないか少し心配でした」
そう言って茶目っ気のある感じで微笑むアリアさんは、どこか楽しそうな様子で、見ていてこちらも自然と笑顔になった。
いや、実際戦闘力がスライムと比較されるレベルの俺から見れば、男爵級でも伯爵級でもレベルが違い過ぎて、とにかく凄い程度にしか分からない。
「ガッカリなんてしませんよ。というか、爵位級ってだけで世界でも一握りの天才と呼んでいいレベルなはずですし、アリアさんはやっぱり凄いんだなぁって感心しました」
「そんなに煽てないでください。調子に乗ってしま――カ、カイト様!? 失礼します!」
「え? うぉっ!?」
話していた途中でアリアさんはなにかに気付いたような表情を浮かべて、もの凄い速さで俺を抱えて近くの路地裏に飛び込んだ。
いきなりなにが起こったか分からずに混乱していると、アリアさんはそのまま俺の頭を抱きかかえ、身を隠すような仕草をしていた。こういう時に考えるべきでは無いかもしれないが、思いっきり胸に顔を押し当てられている状態なんだが……なんか上品な匂いもするし、変にドキドキしてしまう。
「……あの、アリアさん?」
「し~~! 少しお待ちください。ちょっ、ちょっと知り合いが居たもので……窮屈で申し訳ないとは思うのですが、もう少々お待ちください」
「……あ、はい」
その言葉でなんとなく状況を察することができた。アリアさんは現在間違いなくお忍びのような状態で来ており、知り合いに見られるのは避けたいのだろう。
納得はできたがその知り合いが通り過ぎるまでこのまま胸に抱かれた状態というのは、気恥ずかしさが……いや、でも俺が下手に動いて気付かれたりしても悪いし……あっ、そういえば知り合いってここから見えるかな?
アリアさんに抱きしめられた状態で、顔はあまり動かせないが視線だけ少し動かしてアリアさんが見ている方向を見ると……遠目ではあったが、見知った方の姿が見えた。
いや、というかあれ……ベアトリーチェさんでは? うん? あれ? じゃあ、やっぱり、アリアさんって……アレキサンドラさんなんじゃ……。
シリアス先輩「な、なんてやつだ。出会った初日でハグまで決めてくるとは……RTAでもしてんのか……」