エイプリルフール番外編・延長の延長
延長はこれで終わり。
クロの食べ歩きガイドで調べた飲食店に向かう途中で、シリアス先輩が突然立ち止まって虚空に向けて叫び始めた。
「いや、延長の延長ってどういうことだよ!! ひとつ前のでなんか綺麗に終わってただろ、これ以上なにやれってんだ!?」
「……シリアス先輩、急にどうしたんですか?」
「快人、大変だ。世界が私たちにまだなにかを求めている」
「……なにか、とは?」
現状俺の印象としては、シリアス先輩がまた突拍子もなく訳の分からにことを言い始めたという感じなのだが、当の本人はなんか真剣である。
いったいシリアス先輩にはなにが見えているのか分からないが、とりあえずなんか予想外の事態であるというのは伝わってきた。
「たぶんアレだ。この流れから言うところの……デートだな!」
「……は、はぁ、まぁ、一緒に食事に行くわけですし、広義の意味ではデートでも間違いではないでしょうね」
「くそっ、世界め! いったいどこまで私を苦しめるつもりだ!! ……あっ、違う。別に快人とデートするのが嫌とかというわけではなくて、完全に別件なので、そこは勘違いしないように!」
「あ、はい」
なんかひとりで迫真の様子で言っているが、まず誤解云々の前に俺には状況がサッパリ分かってないのだが……まぁ、ああいう補足をする辺りシリアス先輩の根の善良さが伝わってくる気はする。
「えっと、とりあえず普通にタンドリーチキンの店に行って大丈夫ですか?」
「あ、うん。そこはたぶん全く問題ない。足止めてごめんね」
「いえいえ、じゃあ、行きましょうか」
相変わらず、ジェットコースターみたいな速度で情緒が切り替わるというか、さっきまで怒った様子で喋ってたのに、何事も無かったかのように切り替えてる。
「……そういえば疑問なんですけど、シリアス先輩ってシリアスの化身……いわゆる概念が実体化したような存在なんですよね?」
「そう、私こそがシリアスを愛し、シリアスに愛されるシリアスの中のシリアス。キングオブシリアスのシリアス先輩だが、それがなにか?」
シリアスがゲシュタルト崩壊しそうではあるが、その辺りの真剣にツッコんだらなんか負けな気がするので、全力でスルーをして質問する。
「いや、なにか特殊なことが出来たりするんですか? 例えばほら、相手をシリアスな感じにさせるとか?」
「ふむ……まぁ、強いて言うなら……シリアス展開になることを祈りながら、ほのぼのやイチャラブに文句を言うこと、かな?」
「……ただのテレビ見てる人では? と、特殊能力みたいなのは?」
「雑学に詳しい!」
「一般人じゃないですか!?」
印象だけじゃなくて、本人に聞いてもシリアス要素ゼロなんだけど……なんでこの状態で、シリアスの中のシリアスだとか言えるのか……ある意味その根拠のない自信こそが、先輩の一番の強みかもしれない。
「ああ、あとは砂糖吐いたり、砂糖化したり……甘味系には大体変化できるかな? それが特殊能力と言えば、そうだし特別な能力じゃなくて生態と言えば、それもそうだから判断に迷うところだね」
「……シリアスの化身では無くて甘味の化身なのでは?」
「別に自分で自在に変化できるわけじゃなく、イチャラブ展開とかを見ることによって、私の体の中にあるシリアス因子が拒絶反応を起こして変質することで変化するとか、そんな感じ……だろうか?」
「本人ですら、自分の生態がよく分かってないじゃないですか!?」
なんか全体的にフワフワした生態というか、謎が多いので尋ねたらより謎が深まったどころか、本人すらあまり分かってない感じがする。
「……はぁ、まぁ、本人もよく分からないんじゃ仕方ないですね」
「うぐっ、頼りないシリアスで……すまない」
「いやいや、全然頼りないとかそんなことは……確かに先輩は変わった人ですし、謎も多いなぁって感じではありますけど、いい人ってのは分かりますし……俺は結構好きですよ」
「は、はぁ!? お、おおお、おまっ……ふ、ふざけたことを……そ、そそ、そんな簡単に私を堕とせると思うなよ!!」
「いや、別に落とすとかそんなつもりは……」
「でもまぁ、お前の勇気に免じて、食事の後のカフェとかデートとか、そういうのなら付き合ってやらなくもないから!! スキンシップもある程度までは許可するが! あくまで全年齢対象のものに留めておけよ!!」
「……あ、はい」
気のせいかな? なんか、別にそんなつもりで言ったのではないが、いまの反応を見るとつい「押したら行けそう」みたいな感じがしてしまうチョロさである。
まぁ、その、本当に変な人ではあるが……なんだかんだで、面白い相手ではあると思うので、やっぱり嫌いでは無いなぁという感想だ。
???「……」
シリアス先輩(攻略済み)「な、なんだその目……」
???「いや、名前の横の意味が分かったというか……いや、本当に私がいうのもアレですが……チョロすぎる」