金色の出会い⑩
俺とアリアさんのノリに付き合ってくれているらしい店主は、ニヒルな笑みを浮かべたままどこか芝居がかった様子で告げる。
せっかくなのでそのままのノリで行くことにして、俺も軽く不敵な笑みを浮かべる。
「……ご注文は?」
「……ハーフ&ハーフで」
「ほぅ、裏メニューを知ってたか……大した兄ちゃんだ」
そう、アリアさんの悩みを解決する手段なのだが……この店はメニュー表には無いのだが、頼めば半分に切ったサイズのスティックスナックを二種類頼むことができる。
ただその場合は手間とかもあるのだろうが、通常一本3Rのところがハーフ&ハーフだと4Rになるのが注意点である。あと裏メニューとか言っていたが、別に俺とアリアさんがあのノリで話を始めなければ、店主の方から持ち掛けてくれたと思う。
俺の場合はクロの食べ歩きガイドに説明があったので知っているだけだ。
「……ハーフ&ハーフ、二種類の味を同時に楽しめて量も一本分と変わらない。夢のような話だが……世の中上手い話ばかりじゃねぇ。通常なら3Rで楽しめるスティックスナックだが、ハーフ&ハーフだと4Rになる。リスクってのはつきものだな……さぁ、どうする?」
「チョコレートとキャラメル、プレーンとストロベリーの組み合わせでハーフ&ハーフを2つお願いします」
「躊躇なしとは……いい度胸だ、気に入った。兄ちゃんのその心意気に免じて、ひとつ提案をしてやろう」
「……提案?」
店主が思った以上にノリがよくて、ついこちらも雰囲気に飲まれてなにか取引をしているような空気だが……食べ歩きのお菓子買ってるだけである。
「そう、通常なら二セットで8Rになるわけだが……もし、兄ちゃんがそっちのレディの分まで払う漢気を見せるってんなら7Rにまけてやるぜ……どうする? 色男?」
「ふっ……もとよりそのつもりです」
「カ、カイト様……」
なんか本当に変なノリになってるし、アリアさんもしっかり乗っかって感極まったような声を出してるが……繰り返しになるけど、出店でお菓子買ってるだけである。
あとで思い返すと恥ずかしくなりそうだと感じつつも、その場のノリと勢いでスティックスナックを購入してサムズアップする店主を背にアリアさんと共に店から離れる。
「……なんか変な感じになっちゃいましたね」
「ふふ、でも少し楽しかったです。それに、二種類の味を同時に味わえる方法があるとは、勉強になりました……あっ、カイト様、支払ったお金はお返しします」
「ああいえ、気にしないでください。さっきも言いましたが、元々今回は俺が出すつもりだったので……ほら、フライドポテトとかはご馳走してもらったわけですしね」
「……これは、厚意を受け取らないのは失礼なパターンですね。分かりました、それではありがたく」
俺言葉を聞いたアリアさんは、お礼の言葉を口にして微笑む。こういう時に押し問答にならずに素直に受け取ってくれたりするのも、アリアさんと話していて話しやすいと感じる要因なのかもしれない。
たぶんコミュ力が高い方なんだろう。遠慮すべき時は遠慮しつつ、そうじゃない時は相手の厚意に甘えたりと臨機応変な対応を自然と行っているので、こちらとしては非常に接しやすい。
「ん~素晴らしい味ですね。やはりこういう素朴な味わいの菓子が好きですね」
「シンプルですけど本当に美味しいですよね。飽きにくい味といいますか……」
「そうですね。いろいろな味が楽しめるのもいいですね……ところで、カイト様……実は私、ストロベリーとプレーンも気になるのですが……どうでしょう、ここはひとつ互いに一口ずつ交換することで、4つの味を全て味わうというのは?」
「……へ? え、ええ、いいですけど……えっと……アリアさんは、大丈夫なんですか?」
「うん? ええ、問題ありませんよ」
……間接キスとかそういうのはあまり気にしない方のようだ。とりあえず、アリアさんんが問題ないなら俺の方も特にいやだったりというわけでもないので、一口ずつ交換することにした。
それぞれハーフ&ハーフのものが入ったスティックスナックを交換して、それぞれ一口食べて相手に戻す。チョコレートとキャラメルも甘くて美味しかった。
「プレーンとストロベリーも美味しいですね。同じスティックスナックでも味によって全然違うように感じられて、なんだか楽しいですね」
「確かに、あっ、チョコレートとキャラメルも美味しかったです。ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそワガママを聞いていただいて申し訳な………………」
「アリアさん?」
俺からチョコレートとキャラメルのスティックスナックを受け取ったアリアさんは、少しして硬直してスティックスナックの包みと俺の間で視線を動かす……ように見える顔の動きをしていた。目は髪で隠れていて見えないが、たぶんそういう視線の動きをしていると思う。
「……カイト様、出来れば怒らないで聞いていただきたいのですが……」
「はい……どうしました?」
「あ、いえ、ついスティックスナックの味の方に意識が行き過ぎていまして、間接キスのような形になることはまったく考慮しておらず、いま気付きました。その、お嫌でしたら申し訳ないです」
「ああ、そうですね。いえ、俺の方もあまり気にしてなかったので大丈夫ですよ。アリアさんの方こそ、嫌じゃなかったですか?」
「相手次第ではりますが、今回は問題ありません。気づかずに、申し訳ありませんでした」
「いえ、お気になさらず」
どうやら間接キスとかを気にしないんじゃなくて、今回は味の方に意識が行っていて思い至ってなかっただけのようだった。ちょっとガードが緩いような気がしないでもないが、とりあえず気まずい感じとかにはならなくてよかった。
シリアス先輩「出会った初日に関節キスを決めてくるとは……なんてスピード……恐ろしいキャラが出てきたな」