金色の出会い⑨
ちょっと忙しくてやや短め
紅茶用品店ではせっかくなのでティースプーンをひとつ購入し、同じくいいものが見つかったらしいアリアさんもスプーンを購入して店を出た。
この後は互いに特に行きたい場所というのは無いので、ウィンドウショッピングを楽しむ予定である。俺も西区画にはそんなに来る機会がないので、この辺りの通りは割と新鮮だ。クロの丸ごと食べ歩きガイドとかである程度食べ物の店は知っているが、それ以外はほぼ知らないと言っていい。
アリアさんと共に通りを歩きつつどんな店があるのか視線を動かしていると、不意にアリアさんがなにかに気付いた様子でどこか悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「……カイト様、せっかくですし私と一緒に少しはしたないことをしませんか?」
「へ? は?」
落ち着け、これはたぶん変な意味ではない筈だ。付き合いは浅いがアリアさんがそういう冗談を言う人ではないのは分かっているので、たぶんこれは……淫らなという意味ではなく、マナー的にという意味で間違いない。変な想像をするなよ……心を落ち着かせろ。
そう自分に言い聞かせつつアリアさんの視線の先を見ると、そこにはひとつの出店があった。
「……スティックスナックですね」
それはスティックスナックというお菓子の出店で、以前俺も食べたことがあるので知っている。その名のとおり棒状の……いや、変に取り繕うのはやめよう、地球で言うところの『チュロス』だ。
もちろん微妙に食感とか形状が違うのでまったく同じではないのだが、85%ほど似てるチュロスである。
「はい。食べ歩きというのは、少々はしたない行為とは感じるのですが……やはり、食べながら歩くからこその美味しさというのもあると思いませんか?」
「ええ、それは同感です。確かにチュロ……スティックスナックは、食べながら歩くのにちょうどいいですね」
やはり予想通りだった。辺境の村出身とのことだが、村で食べ歩きをする機会も少ないだろうし、メイドとしてアルクレシア帝国デ働いている間にはもちろん食べ歩きははしたないという認識になるのも納得できる。
そういえば、オリビアさんも食べ歩きにかなり躊躇していたような覚えがあるので、アリアさんにとっても食べ歩きは背徳的な行為なのだろう。まぁ、アリアさんの場合はそれも含めて楽しんでいる感じがあるが……。
アリアさんと一緒に出店の前に移動する。実はこの店は日によって王都のあちこちに移動して出店しているので、前に南区画で食べたことがあるし、クロの食べ歩きガイドでも紹介されている店なので少し知っている。
スティックスナックは4種類あって、プレーン、チョコレート、キャラメル、ストロベリーだったはずだ。
「こ、これは……なんとも悩ましいですね。チョコレートも美味しそうですが、キャラメルも……ですが、先ほど食べたばかりで二本も食べるほどお腹に余裕は……どちらにすべきか、迷いますね」
なんか、アリスとかクロとか食べたものを瞬間で魔力に変換して、いくらでも食べられる知り合いがいるからか、アリアさんの反応は結構新鮮に感じる。
まぁ、それはそれとしてアリアさんは二種類の味で悩んでいるみたいなので、ここはちょっとした裏技を教えよう。
「……ふふふ、アリアさんはどうやらご存知ではないようですね。実はこの店には、アリアさんの悩みを解決する隠された注文テクニックが存在するんですよ」
「なっ、なんですって……そ、そんな夢のようなことが、本当に可能だというのですか……」
ちょっと悪乗りした雰囲気で言ってみたら、アリアさんも普通に乗ってきてくれた。どうやら結構ノリのいいタイプらしい。
その様子に思わず苦笑しつつ店主を見ると、店主はニヤリとニヒルな笑みを浮かべる。
「……ほぅ、中々鋭い目をする兄さんだ。だが、果たしてその若さでうちの隠しメニューの存在を理解できているのかな?」
……どうやら、店主もノリのいいタイプだったみたいである。というか、このノリが継続する流れかこれ!?
シリアス先輩「ほのぼのしてる。最近ほのぼのは許せるようになってきた……うん、砂糖よりまし」
???「一連の終わったあと恋人との単話とかきそう……」