金色の出会い⑧
アリアさんと一緒にやってきた紅茶用品店は茶葉などを取り扱う店というよりは、カップなど紅茶周りの品を取り扱う店だった。
あまり縁のない店ではあるが、入ってみるとティースプーンがずらっと並んでいる棚があったり独特の空気を感じる。
「こういう店には始めてきましたよ。たくさんあるんですね」
「そうですね。紅茶もそうですが飲食の味というものは、必ずしも素材や調理のみで決まるわけではありません。食べる場所やシチュエーション、食器などによっても感じる味は変わってくるものです。なので紅茶にも、その時その場、出す相手に合わせたカップなどがあると個人的にか考えています」
「凄い拘りって感じですね。やっぱり、メイドとしてそういう部分にも気を遣うんですか?」
「ええ、特にアルクレシア帝国は貴族の力が強い国なので、紅茶などでも様式に拘る貴族も多いですね。カップを含めた陶磁器などの焼き方にも、旧帝国式や新帝国式といった風に複数の種類や時代背景があるので、メイドには多くの知識が求められますね」
ティースプーンなどを見ながら穏やかに説明してくれるアリアさん……顔を半分隠す前髪で目は見えないが、どこか鋭いまなざしをしているような気がする。
凝り性だって言っていたし、紅茶には自信があるとも言っていたので、アリアさんの紅茶の知識は相当凄いのだろう。
「……とはいえ、それはあくまで必要な場での話です。プライベートの場であれば、美味しく飲めるならどんな形でもいいと思いますね。マグカップで紅茶を飲んでもいいですし……時と場合によって様々と言うべきでしょうか、格式やマナーというのも大切ですが、そういったものは必要なタイミングに行えれば問題ないですからね」
「なるほど、ちなみにアリアさんは?」
「自宅では、マグカップでココアを飲んでますね。マグカップも露店で買ったデザイン重視のもので、別に有名な陶磁器でもなんでもないです」
「あはは、なるほど、アリアさんは仕事とプライベートをキッチリ分けるタイプなんですね」
「そうですね。私の場合はメイド服を着ている時は仕事中なので、その姿に相応しく完璧の傍らに在ろうとしていますが……プライベートでは割と気を抜いてますね。ええ、いまも別に仕事で必要な紅茶用品を見ているわけではなく、家で使う用に可愛いデザインのティースプーンが欲しいなぁと、そう思って探しているだけですからね」
そう言って口元に悪戯っぽい笑みを浮かべるアリアさんを見て、俺も思わず苦笑する。どうやら真剣に見えたのは、どのデザインが可愛いかを悩んでいただけのようだ。
比較的茶目っ気のあるタイプというか、アリアさんの性格は個人的にかなり好きなタイプで話しやすい気がする。
「……俺もなにか買いますかね」
「いいと思いますよ。お気に入りの道具がひとつあるだけで、お茶の時間が楽しみになったりしますからね」
「確かに、新しいものを買うと早く使いたくなりますね」
「ええ、まさにその通りです。男性であるカイト様が使うなら、この辺りのデザインがいいのではないでしょうか?」
「へぇ、結構カッコいい感じのもありますね。というか改めて見ると、ティースプーンってこんなにいろいろなデザインがあるんですね。いままであまり意識して使ってなかったので、ちょっと驚きました」
「新しいことを知って見識が広がるのは素晴らしいことですよ。いま、カイト様の世界は少し広くなりましたね」
新しいことを知って少し世界が広くなる……いい言葉だ。実際こうしてアリアさんと出会って紅茶用品店に来なければ、自分が使うティースプーンのデザインをアレコレ考えることは無かっただろう。
「確かに、見える世界が少し広がってワクワクします。その切っ掛けをもたらしてくれたアリアさんとの出会いに感謝ですね」
「おや? ふふふ、私もひとつ見識が広がりました。どうやら、カイト様は私を口説くのが得意なようです」
「ううん?」
「私はこう見えて単純でして、いまの一言は思わずドキッとしてしまいました。ふふ、私も貴方とこうして偶然巡り合えた運命に感謝ですね」
そう言って微笑んだ瞬間、アリアさんの髪が少し動き優し気な赤い目が一瞬だけ見えて俺も少しドキッとした。
アリアさんはそれ以上その話題に触れることは無く、楽しげな様子でティースプーンを見始め、俺にもいろいろなスプーンを勧めてくれ、俺もすぐに少し前の会話は忘れてショッピングを楽しんだ。
マキナ「シリアス先輩、はいこれ」
シリアス先輩「……なにこれ? チョコレート?」
マキナ「シリアス先輩がチョコレート化した時に手に入れたチョコを成形して、味とかを美味しく整えたものだよ。形とかも高級店に負けず劣らずのいい感じでしょ?」
シリアス先輩「う、うん……原材料は気になるが、見た目はいいと思う……で、なんでこんなものを?」
マキナ「もうすぐ4月1日でしょ? 手土産ぐらい持っていかないと……」
シリアス先輩「これを快人に渡せってか!? 発想が狂人じゃねぇか!! というか、狂神だったわ……」