金色の出会い⑥
食事を終えてアリアさんと共に店の外に出る。本来であれば、今回はアリアさんの道案内であり、ここでの食事もそのお礼。これで解散となるのが普通の流れではあるが、そのタイミングでアリアさんが提案してきた。
「カイト様、道案内していただいたお礼に関しては終了したのですが、個人的にはカイト様ともう少しお話としたいという気持ちがありまして、カイト様のご都合さえよろしければもう少々ご一緒しませんか?」
「はい、喜んで。俺の方ももう少しアリアさんと話したいと思っていあっ所なので、ありがたい提案です。俺の方は特に予定とかはないですが、アリアさんは他に行く予定だった場所とかありますか?」
「いえ、ですが、紅茶用品を扱っている店に行こうかと思っていました。アルクレシア帝国とシンフォニア王国では特に陶磁器などの様式が違うので、それぞれの良さがあったりします」
「へぇ、詳しいんですね」
アリアさんは話しやすく、境遇的に共感できる部分があるからか食事中の会話もかなり弾んだ。なのでアリアさんの提案を了承しつつ、一緒に通りを歩き始める。
「お恥ずかしながら、凝り性というべきでしょうか……一度手を出すと変に熱を入れてしまうところがありまして、メイドとして紅茶に関連するカップなども詳しくなくてはと思って調べ出して……最終的には自分である程度焼けるところまで行きました。いえ、完全に素人仕事ではありますが……」
「それは凄いですね。でもいろいろ手を伸ばして中途半端に投げ出したりってよりは、そういう感じの方が後々身になることも多そうですね。俺はどうなんでしょう? 結構いろいろ手を出しても長続きするのは少ない気がしますね」
「それも決して悪いことではないと思いますよ。合わないものを無理に続ける必要などありませんし、己の適性など実際に手を触れて見なければ分からないものです。なので、いろいろ手を出すのは己の可能性を模索しているという意味で、とても勤勉なことだと私は思いますね」
「そう言われると、確かに悪くない気もしますね。ありがとうございます」
ここまで話していて分かったが、アリアさんは穏やかで優しい方である。どことなく雰囲気的にはリリアさんとかに似ているかもしれない。いや、単純に俺の貴族の知り合いが少ないだけではあるが……いや、アリアさんは貴族じゃないんだけど……ちょっとこんがらがるな。
そんな風に考えながら歩いていると、穏やかな雰囲気を切り裂くような叫び声が聞こえてくる。
「誰か! 捕まえてくれ!!」
「「ッ!?」」
聞こえてきた大きな声にアリアさんと共に振り返ると、なにかを抱えて走るローブの人物とそれを追いかけているどこかの店の店員っぽい雰囲気の人が見えた。
パッと見て、店の商品を盗んで逃げるローブの人物を店員が追いかけている状況ではあると察することはできたが、だからといって瞬時に体が動いて行動できるわけでもないし、そもそも問題の場所までここからかなり距離がある。
通りに居る人たちも同様に助けに入ったりというのは難しく、逃げるローブの人物を避けるように道を開けていた。
どうしよう? なにか方法は? とそんな思考が頭に上ってくるのとほぼ同時に、アリアさんが拍手をするように手を合わせるのが見え、パンッと大きな音が聞こえたと思うと走っていたローブの人物が倒れ込んだ。
「……え? いまなにが?」
「手を叩いた音の振動を収束させて、あのローブの人物の顎に軽く衝撃を与えて脳を揺らしました。気を失ってると思います……警備隊も駆けつけて来たみたいですし、あとはそちらに任せて大丈夫でしょう」
「えっと……いまのはアリアさんが?」
「ええ、私は音を操れるので、ひいては空気の振動なども比較的自由に操れますので、その応用と言ったところですね」
そういえばアリアさんは、高位魔族だと先ほどの話の中で言っており、革命軍にも参加したという話から戦闘能力も高いのだろう。となれば、強盗のひとりやふたり無力化するのも簡単なのかもしれない。
だが、それはそれとして音を操って戦うのはなんかカッコいいな……いまの軽い拍手をしただけで離れた場所に居る強盗を無力化させたのも、なんかスマートでカッコよかった。
音を操るっていろいろ応用幅もありそうだし、なんならアメルさんとか好きそうだ……おっと、落ち着け。最近アメルさんの影響もあってか、封印していた中二心が時々顔を出してくるようになった気がする。
シリアス先輩「おっと、膝黒の書の話はそこまでだ」
???「やめてあげてください。誰もが通る道なんですよ」
シリアス先輩「そういえばお前も結構……」
???「首、いらないっすか?」
シリアス先輩「……す、すみません」