金色の出会い③
西区画の通りに入り、アリアさんと雑談しながら道を歩く。やはり仕草などに上品さは見られるものの、アリアさんは結構こうして街に遊びに来ることが多いみたいで、ここだけではなく地方の都市に関しても結構詳しかった。
「へぇ、そんな料理があるんですね」
「ええ、シンフォニア王国だと西部のいくつかの都市以外では食べられていない民族料理ですね。味は良いのですが調理に手間がかかるので、客足が多い場所で売るには向いていないというのもありますね」
「なるほど、確かに客が多い場所で売るなら回転率は大事そうですよね。高級店とかなら別ですが、民族料理ってことはそういう感じじゃないでしょうし……ものによって適した売り方があるんですね」
「仰る通り、なにごとも適材適所といいますか、紅茶などでもそうですが場所や人に合わせた淹れ方をするのが一番大事だったりしますね」
例えが紅茶だったりする辺りはやはり育ちのよさが伺えるが、明るくも穏やかな方でかなり話しやすい人だと思う。
そんな風に考えていると目的の店が近くなったタイミングで少し強めの風が吹いた。強すぎるというわけではなく、近くにあった大き目の建物の隙間を通ってきた風で、歩くことに影響があったりするわけではないのだが……その風によって、アリアさんの前髪が少しだけ上がり片目が見えた。ルビーのような美しい赤い瞳だったが……それ以上に顔が半分隠れている状態と、片目とはいえ目が見えた状態では得られる情報量が大きく変わる。
あれ? この人……アレキサンドラさんじゃないだろうか? いや、髪型などがかなり違うので雰囲気が変わっているし、そもそもアレキサンドラさんと会ったのはメイドオリンピアで半場強制的に特別審査員みたいなことをやらされた時に、少し会話した程度なので確信は持てない。
というか……やはり声が違う……アレキサンドラさんはどこかクールさを感じる凛とした声だったが、アリアさんの声はホッとするような優しく上品な感じがする。
声だけ変える魔法とかあるんだろうか? いや、それとも単に顔が似ているだけの別人? その線が一番あり得るかもしれない……例えば姉妹とか? わからないが、仮にアレキサンドラさんだったとしても似ているだけの別人だったとしても、正体を隠しているという現状で突っ込んで聞くのはやはり野暮というか、失礼な気がするし、あんまり気にしないことにしよう。
「カイト様、どうかしましたか?」
「ああ、いえ、すみません。少し考え事を……それより、あそこですね」
「はい。目視できる距離まで来ましたね……昼時を外したおかげか、幸い空いているようですね」
目的の店は本当に庶民向けのファーストフードといった感じで、店内もそれほど広くはなくゴチャゴチャした感じではあったが、それがジャンクフード感があっていいというか、高級店とはまた違った美味しそうな雰囲気が素晴らしい。
実際俺も、リリアさんとか周りにいる人がハイソサエティだからか、こういう感じの雰囲気の店に来る機会は結構少なかったので、楽しみである。
「いいですね。こういう雰囲気。決して洗練されているわけではありませんが、必要なものを必要な場所に配置しつつも遊び心のある空間、漂ってくる香りが期待を膨らませてくれますね」
「そうですね。揚げ物の美味しそうな匂いがしますね。フライドチキンとかですかね」
例によって目は隠れているのだが、なんとなく目を輝かせているようなアリアさんの様子に微笑ましさを感じる。声色も少しテンションが上がっている感じがしてこういう店が好きなのだと伝わってきた。
そのまま店内に入ると、この店は先にカウンターで注文して商品を受け取って席に座る。ハンバーガーショップとかのような形式だった。
「私はフライドポテトとナゲットとコーラを注文しますが、カイト様はどうしますか?」
「……え? コーラあるんですか!?」
「ええ、過去の勇者役から伝わったらしいですね。異世界の元の完全に同じかどうかまでは分かりませんが……」
「なるほど、じゃあ俺もアリアさんと同じものを」
「分かりました。それでは、ポテトとナゲットのサイズを大きくして、一緒に食べましょう」
まさかこの世界にコーラがあったとは……そういえば、クラフトコーラとかって手作りのコーラもあるし、材料と作り方さえ知っていれば作るのはそれほど難しくないのかもしれない。
いいなぁ、この店。よく見たらバーガーとかもある……いまそんなにお腹は空いてないので、バーガーは食べる気にならないが、今度また食べに来よう。
シリアス先輩「声を変える魔法……でもそういうのって快人だと無効化しそうだし、じゃあ別人か?」
???「いえ、例えば魔法じゃなくて『声を変えられる種族』とか特性的な物であれば無効化されませんし、そもそも当初と比べてシャローヴァナル様の祝福による魔法無効化は、細かくアップデートを繰り返したことで改善されてますよ。人化の魔法とかもカイトさんが触れても無効化されていないようになってますしね」
シリアス先輩「なるほど……快人に害が無ければって感じか……」