金色の出会い①
帰宅が遅くなったので短めです。
船上パーティに関しての準備はじっくり進めていく感じになるので、それほど焦る必要は無い。俺も招待客のリストは完成させたが、招待状はもう少ししてから作成するみたいなので、まだ追加する余裕は全然あるみたいだ。
とりあえず根を詰め過ぎても仕方ないので、気分転換も兼ねて街を散策することにしたのだが、大通りに出た辺りでふと気になる人を見かけた。
美しい金色の髪の女性なのだが、前髪が長く目元どころか鼻近くまであるため目が完全に隠れている。服装は茶色の皮のズボンに白色のシャツに茶のジャケットと、地味目な組み合わせなのだが……妙に質がいいというか、服に上品さを感じる。なんというか、貴族の令嬢が「市民っぽく変装しようとした結果」みたいな雰囲気がある。
だが、俺が気になったのはそこではなくその女性がメモのようなものを手にして立っており、なんとなく雰囲気から道に迷っているような感じがしたからだ。
念のため感応魔法を使ってみると、やはり困っているような感情が伝わってきた。こうして目についたからには性格的に放ってはおけないので、俺はその女性に近付いて声をかける。
「突然すみません。パッと見た印象ですが、道に迷ったりしてますか? もしそうなら、ある程度はお力になれると思いますけど……」
「ッ!?」
俺が声をかけると女性はこちらを振り返り、驚愕した様子で体を動かした。目が隠れているので表情まではハッキリと分からないが、体の動きや顔の見えている部分で驚いているのは伝わってきた。
たしかに、見知らぬ男がいきなり声をかけて来たら驚くかもしれない。というか下手するとナンパのように見られている可能性すらある。
当初の予想通り目の前の女性がお忍びで市井に来ている貴族令嬢とかなら、俺のことを警戒してもおかしくないだろう。
そう思っていると女性は少しの逡巡の後に、どこか遠慮気味に口を開いた。
「……はい。お恥ずかしながら、この通りにはあまり来た経験がなく、店を探しているのですが……この店が何処にあるか分かりますか?」
「ちょっと見させてもらいますね……えっと……」
どうやらひとまず怪しい相手ではないと思ってくれたのか、女性は道を尋ねてきたので俺は女性が持っていたメモを見せてもらう。
そこには通りの名前と、簡単な手書きの地図が書かれていたが……。
「えっと……言いにくいんですが、これ……この通りじゃなくて、西区画の通りですね」
「え? そ、そうなのですか?」
「はい。シンフォニア王国首都の王城前広場から行ける三つの通りは全部名前が似てて、これは西区画の方に向かって伸びる通りの名前ですね」
「それは、なんとも不勉強でお恥ずかしい限りです。えっと……それでは、ここからかなり距離があるのでしょうか?」
「かなりって程じゃないですけど、一度王城前広場を経由する形になるので、ちょっと大回りする形になりますね」
「な、なるほど……」
どうもこの女性は首都にあまり慣れて無い感じがする。大回りしなければならないと聞いて、明らかに不安そうな感じだったし……どこか別の地方の貴族、あるいは他国の貴族の方とかかもしれない。
「もしよければ、近くまで案内しましょうか?」
「よ、よろしいのですか? 貴方様にもご予定があるでしょうし、ご負担になったりは……」
「大丈夫です。特に予定もなく散策をしていただけなので……」
「そうですか……では、大変恐縮ですが、お言葉に甘えさせていただいてよろしいですか?」
「ええ、もちろんです。あっ、自己紹介がまだでしたね。俺は宮間快人と言います」
「私はアレ……あっ、いえ、アリアとお呼びください」
いま明らかに慌てて言い直したような気がしたが、やっぱりお忍びで来てる貴族って感じがする。本名ではなく偽名というところかな?
シリアス先輩「快人がひとりで出歩くという、分かりやすい新キャラフラグ」