迷子の真相④
シロさんが気を利かせてくれたことによりチェントさんとシエンさんはトーレさんの能力を無視して補足できるアイテムを手に入れた。これで理屈上はトーレさんがふたりから逸れることは無い。
そもそも単純な能力であればチェントさんとシエンさんが圧倒しているので、シロさんが与えた権能級の力がない限りは問題がない筈ではあるが……試しようがない。
「これで、トーレさんが逸れてもチェントさんとシエンさんはすぐに補足できるってことですよね?」
「ええ、シャローヴァナル様が下賜してくださったものなので間違いはないと思いますが、実際に試してみないことには分からない部分もありますね」
「チェントの言う通り、一度試してみたいですね……トーレ姉様、少し迷子になってくれませんか?」
「さすが私の妹たち、サラッととんでもないこと要求してきやがる」
シロさんが作り出したものなので問題はないとは思うが、それでも実際に試してみたいと思うのは当然の心境だろう。
なので試すため、少し迷子になって欲しいと……もちろん明らかに冗談と分かる口調で告げるシエンさんに対し、トーレさんもどこか楽し気に笑う。そして、少し考えたあとで口を開いた。
「……う~ん。つまるところ、別に迷子じゃなくてもチェントとシエンが探知魔法で私を補足できたらいいんだよね? じゃ、私がカイトと一緒に街に出かけるから、チェントとシエンは15分ぐらい待ってから探知魔法で探して追いかけて来てよ」
「ああ、なるほど確かにそれならトーレさんを探知魔法で見つけれるかどうかの実験になりますね」
「「……」」
トーレさんの提案はいいアイディアだと思うし、そのまま合流したら四人で街で遊んでもいいとは思ったのだが、なぜかチェントさんとシエンさんはなんとも言えない複雑そうな表情を浮かべた。
なんだろう? なにかを躊躇しているというか、嫌そうな表情をういうか……。
「ああ、安心してください。今回は事前に分かってるので、妨害したりしませんから」
「あっ、はい」
「お気遣い感謝いたします」
俺が首を傾げていると、アリスが姿を現しチェントさんとシエンさんに一言告げてから再び姿を消した。その言葉にあからさまにホッとした様子を浮かべていたふたりを見て、なんとなくは事情を察することができた。
魔界で最初にふたりと会った際に、アリスからチェントさんとシエンさんが後日改めて挨拶をしたいと言っているという伝言を聞いた覚えがある。たぶんだけどその時にチェントさんとシエンさんは俺を探知魔法で探そうとして、アリスが対処したんだと思う。
険悪そうな感じというか、アリスを恐れているような雰囲気は無かったのと、先ほどのアリスの発言からその時は咄嗟に対処してしまっただけっぽい感じがする。なので、今回は事前にふたりが探知魔法を使うと分かっているので、問題は無いと一言いいに来てくれたのだろう。
「ふたりとも、シャルティア様となにかあったの?」
「ああ、いえ、以前にカイトさんとジークリンデさんを探そうとしたときに探知魔法を使用しまして……カイトさんの護衛に付いていた幻王様がそれを強制解除したことがあったんです」
「咎められたりしたわけではなく、幻王様も反射的に対処してしまっただけだと仰られていたんですが……もの凄い力量差を肌で感じるようで……思い返すと少しだけ身が固くなります」
そう言って苦笑するチェントさんとシエンさんの説明に、俺とトーレさんも納得した様子で頷く。とりあえず今回に関しては問題ないということで、トーレさんと一緒に街に口出すことにした。
「よし! カイト、デートだよ!! 私と15分で熱いアバンチュールを決めちゃおうか!」
「決めませんし、時間無さ過ぎでしょ……」
「……おかしいなぁ、そろそろ結構コーカンド溜まってるはずなのになぁ~」
「本気か冗談か分からない感じを止めたら、また違うかもしれないですね」
「そんなっ、私の愛が伝わってないっていうの……想いって難しいね」
「そんな楽しそうに笑いながら言われても……」
冗談めかして話すトーレさんは楽し気であり、どこまで本気か分からない部分はありつつも、やっぱりトーレさんと話すのは楽しいなぁとそんな風に感じた。
実験を兼ねてではあるが、トーレさんたちと街に出かけるのも少し楽しみである。
シリアス先輩「いまのところトーレは甘い感じになりそうにないのは、本当に安心感がある」
???「いや、こういうタイプほどデレると甘々になるのでは?」
シリアス先輩「不穏なことを言うのはやめろ」