迷子の真相③
さてシロさんが原因と分かったが、だからといってどうというのは難しい気もする。とりあえず、トーレさんたちには説明して見たのだが、当たり前ではあるがキョトンとしていた。
「……え~と、つまり私がよく迷うのはシャローヴァナル様が私にそういう力を与えてくださった影響ってことだよね。うん、なるほど……文句の言いようもない」
そう、相手は世界の創造神であり原因が変わったところでトーレさんにとっては文句が言えるような相手でもないし、能力自体はむしろ神の権能に匹敵する強力なものなので、使い方によっては非常に強力でもある。
そんなわけでなんとも微妙な表情を浮かべていたトーレさんたちだったが、直後に部屋の中が光るとシロさんが姿を現した。
「失礼します」
「「「ッ!?!?」」」
シロさんの登場に驚愕した様子で、トーレさんとチェントさんとシエンさんは即座にソファーから降りて床に両膝を付いて祈りの姿勢になった。
「シロさん、急にどうしたんですか?」
「ええ、せっかくですし困っているようなら少し対策となる品を渡そうかと……身に付けておけば、行動を阻害されない力による影響を受けなくなるアクセサリーでもあれば、逸れる心配もないでしょう」
「あ~なるほど、それはいいですね! だそうですけど、トーレさん? ……えと、トーレさん?」
どうやらシロさんは気を使ってくれたみたいで、トーレさんが迷わなく手も済むような品を渡してくれるとのことでこれならば悩みも解決だと思ったのだが、トーレさんたちは祈りの姿勢のままで微動だにしない。
俺が不思議そうに首を傾げると、トーレさんは小さく手招きをしたのでそちらに近付くと……。
「……カイト、馬鹿、馬鹿なの!? 喋れるわけないでしょ、私たちシャローヴァナル様から発言の許可貰ってないんだよ! カイトが特別なの、普通は許可なくシャローヴァナル様の前で顔を上げたり喋ったりできないんだよ!」
「あ、ああ、なるほど……」
小声で怒鳴るという器用なことをして訴えてきた内容は、なるほどと納得できた。そういえば、以前にクロノアさんと話をするリリアさんに同行した際に、シロさんが俺に祝福を行ったことを知らないクロノアさんが、俺がシロさんに声をかけたことに本気で怒っていた覚えがある。
「シロさん、トーレさんたちに発言の許可を与えてもらってもいいですか?」
「ええ、では……今日この時、この場において、私が去るまでの間貴女方三名に自由に発言することを許します。顔も上げて構いません」
「「「はっ!」」」
シロさんが許可を出すと、三人は緊張した面持ちで顔を上げる。やっぱりシロさんは世界の頂点だけあってこういう反応が当たり前なのだろう。リリアさんとかは普段からある程度会う機会があって、シロさんが容認しているから比較的自由に発言したりしているが、本来は発言ひとつでも許可が必要な存在というわけだ。
そんな風に思っていると、シロさんは軽く手を振りふたつのブレスレットを出現させた。
「当人……トーレに関しては、その能力を有効活用できる場面があるかもしれませんので封じるようなことはしないでおきましょう。代わりにそちらのふたりに、これを渡しておきます。このブレスレットを着けていれば、トーレの能力によって見失うことは無く、仮に逸れても探知魔法などで場所を特定することができるようになります」
「シャローヴァナル様の慈悲に心よりの感謝を……」
「謹んで頂戴いたします」
チェントさんとシエンさんの前にブレスレットがひとりでに浮遊して移動すると、ふたりは非常に丁寧な動きでそれを受け取って深く頭を下げ、合わせてトーレさんも深く礼をしていた。
「さて、それでは用件は済んだので帰ります」
「シロさん、ありがとうございました」
こういった気遣いをしてくれるのは本当にシロさんの成長というか、優しさを感じることができるのでなんというか少し嬉しい。
感謝を告げる俺に軽く微笑んだあとでシロさんは姿を消し、シロさんが居なくなって少しするとトーレさんたちが大きく息を吐いた。
「き、緊張したぁぁぁ……流石の私も冷や汗が止まらなかったよ。本当にカイトはとんでもないなぁ」
「あ、あんなに近くでシャローヴァナル様のご尊顔を見たのは初めてです」
「トーレ姉様と同じく、冷や汗が……それにこのような品までいただいてしまって、恐れ多くも光栄ですね」
俺はしょっちゅう会ってるので気にしていなかったが、そもそもシロさんを近くで目にすること自体があり得ない状況な様子で、あのトーレさんも精神的に疲れたような表情になっていたので、本当にすさまじい出来事だったのだろう。
事前に言えればよかったのだが……唐突に来たしなぁ……事前告知は不可能だったので、許して欲しい。
シリアス先輩「忘れがちな設定だし、快人は聞いてないので知らないと思うが……シャローヴァナルの纏う魔力は格が違うので、威圧感のように重く圧し掛かるって設定もあったんだよな……」