迷子の真相①
夢の中でマキナさんが言っていた通り、今回は夢の中でのマキナさんとのやり取りを起きたあともしっかり覚えていた。
まぁ、今回に関してはマキナさんの説得が本当に大変だったので、むしろ忘れていたかったという気持ちもあるが……いや、マキナさん自身が聞き分けが悪いとかではない。という基本俺の言葉であれば耳を傾けてくれるのだが、今回はテンションが上がりまくっていたせいか俺が一言告げると、数百倍ぐらいに妄想を膨らませて延々と狂気を持って話しだして、しばらくすると自分を殴って冷静になるという繰り返しだった。
そして亀の歩みのような速度で話が進み、最終的には今回はマキナさんは手出しをしないということで納得してもらった。
そんな夢の中での苦労を思い起こしつつ、それはそうと室内でくつろぐ来客に目を向ける。
「……トーレさんは、なに呼んでるんですか?」
「うん? これ、新魔法具のカタログだよ。うちのじゃなくて、他の商会のやつね。こういうのって結構商会ごとに特色があって面白いんだよね」
ソファーでだらけたようにカタログを見ているのはトーレさんであり、今回は普通にチェントさんとシエンさんと三人で遊びに来ていた。
チェントさんとシエンさんはトーレさんの向かいのソファーに座りつつ、用意した紅茶やお菓子を楽しんでくれているみたいだ。
「なにか買うんですか?」
「実は、この商会から来月に出る探知魔法具を買おうかなって思ってるんだよ。かなり高性能でいままでの探知魔法具だと探知できないような魔力が濃い場所でも正常に機能するし、付属している探知用の魔法具を携帯しておけば私の迷子の対策にもなるんじゃないかなぁって」
「ああ、なるほど、それはいいですね」
たしかにトーレさんを探知しやすくなれば、チェントさんとシエンさんの負担も減るだろうし、ふたりとしても嬉し……あれ? なんで、チェントさんとシエンさんは微妙そうな顔をしているんだろう?
「……トーレ姉様、やめましょう。お金の無駄ですよ」
「そうですよ。どうせまた肝心な時に作動しなくなるんですから、金銭に余裕があるとはいえ無駄遣いは避けましょう」
「い、いや、でもほら、今回は上手くいくかもしれないし……」
あれ? おかしいぞこれ? トーレさんの迷子にいつも苦労しているはずのチェントさんとシエンさんが、むしろどこか憐みの表情で止めようとしている。
その状況に意味が分からず首を傾げていると、俺の様子に気付いたチェントさんが苦笑しつつ説明してくれた。
「ああ、カイトさんには分からない話でしたね。実は、トーレ姉様が探知魔法具を買うのはこれが初めてというわけでは無いんです。トーレ姉様も別にワザと迷子になっているわけではなく、私たちに対して申し訳ないという気持ちもちゃんと持ち合わせているんですよ」
「単純にポジティブすぎるので、一度ハグれたら『そのうち会えるだろう』って好きなことをし始めるだけで、逸れないように対策は講じようとしてくださるんです。探知魔法具を買うのもこれが初めてじゃないんですよ」
チェントさんに続き、シエンさんも苦笑しつつ説明をしてくれる。曰く、トーレさんが迷子防止の対策を講じるのはこれが初めてではないと……。
「ふふふ、実は既存する探知魔法具はほぼ全種類持ってるんだよ!」
「……てことは、さっきのおふたりの反応から察するに……駄目なんですか?」
「はい。なぜかどんなに高性能な魔法具を買っても、トーレ姉様が迷子になった時に限って上手く作動しなかったり、魔法具が動かなくなったりするんですよ」
「探知魔法具に限ったことじゃないですね。高価ですが逸れた際の連絡用に通信魔法具も購入したことがあるんですが、それもいざ逸れた時には全く反応しなくなりましたね。しかも不思議なことに、トーレ姉様を見つけたあとは、それまでが嘘のように普通に動きますし調べても不具合などは無いんですよ」
「…‥それはなんとも不思議ですね」
本当に不思議なことではあるが、トーレさんが逸れると探知魔法にも引っかからないし、対策用の魔法具は全部不具合を起こすらしい。本当にこれ、なんか呪われてるんじゃないか?
「やっぱアレだよ! 首輪つけてふたりに紐持ってもらうのが一番いいんじゃない?」
「止めてください! 私とシエンを社会的に殺すつもりですか……あとなんとなくそれしても、肝心な時に外れて逸れそうな気がします」
「トーレ姉様も毎回逸れるわけでもないですし、常時私たちが拘束しているわけにもいかないですしね」
「う~ん。上手くいかないもんだよね~」
チェントさんとシエンさんの言う通り、トーレさん側としても逸れることはなんとなしようといろいろ試してみている感じではある。まぁ、トーレさんの場合はポジティブお化けなので、駄目だったら駄目だったで「まぁ、いいか」ってなりそうではあるが……。
「せめて私たちがすぐに見つければいいんですが、トーレ姉様の捜索には本当に時間がかかるんですよね」
「不思議です。私もチェントも小さな町なら1秒以内にすべての場所を見て回れるぐらいの力はあるのに、それでも毎回あんなに見つからないなんて……」
「ん~でも、クロム様はいっつもすぐ見つけてくれるよね?」
「そうなんですか?」
これはまた新しい情報ではあるが、どうやらクロはトーレさんをいつもすぐ見つけるらしい。俺が聞き返すと、チェントさんとシエンさんが肯定するように頷く。
「トーレ姉様の言う通り、クロム様はいつも探知魔法であっさり見つけてくださるので、どうしてもトーレ姉様が見つからない時は、最終的にクロム様を頼ることになります」
「私たちとクロム様の技量の差でしょうか? ですが、探知魔法にそこまで技量差は影響しないはずですが……」
「あっ、そういえばカイトも私のことすぐ見つけるよね!」
「……そういえばそうですね。まだ回数が少ないのでたまたまかもしれませんが、私とシエンが毎回数時間かかっていることを考えると、白神祭の時なども含めて凄い速さで発見してますね」
ふむ……うん? あれ? クロはアッサリ見つけられて、俺も同じようにアッサリ見つけられる。だけど、伯爵級でも上位の実力者のチェントさんとシエンさんでもなかなか見つけられない。
なんか違和感があるな……まるでトーレさんが逸れるのがシロさんの力に関わる事で、それを無効化できるクロとシロさんの祝福で影響を受けない俺が見つけられているみたいな……いや、流石にそれはないか……シロさんがトーレさんになにか手を加える理由とかないはずだし……。
(…………あっ)
なんか心当たりありそうな反応してるぅぅぅぅ!?
シリアス先輩「……さすが、だいたいの元凶」