豪華客船の思い出
夢の中でマキナさんとコッペパンを一緒に食べたあとは、例によって雑談をすることになったのだがその際に話題に上がったのは俺が計画している船上パーティのことだった。
マキナさんが船上パーティに関して知っているのは問題ないというか、この方は全知なので知ってて当然と言えば当然である。
「船上パーティか~懐かしいなぁ」
「マキナさんは、船上パーティに参加したことがあるんですか?」
「うん。豪華客船だったね。いや~本当に凄くて印象に残って……」
「……マキナさん?」
おそらく神になる前の話だとは思うのだが、船上パーティに関して思い出があるようで懐かしむような表情を浮かべていたマキナさんだったが、途中で言葉を止めたかと思うとその表情が怒りに変わっていく。
俺に対して怒っているという感じではなく、その船上パーティでのなにかしらの出来事を思い出して怒っているような感じだ。
「愛しい我が子、いい? 母として忠告するけど、親しい相手でもあんまり信用し過ぎちゃ駄目だからね! 世の中には、平気で嘘をつく悪いやつが居るんだからね!!」
「……は、はぁ、そうなんですか?」
「そうなんだよ!! 私がカジノとか初めてなのをいいことに『ルーレットでは一ヶ所には1枚以上のチップを賭けるのはマナー違反』だとか『ポーカーでは最初に一番低いチップを賭けるのが暗黙の了解で、それをしないやつは恥ずかしい』とか、そういう嘘をさも親切心で言ってるような顔で教えてきたりするんだよ!!」
「……な、なるほど?」
「おかしいと思ったんだよ、全知使って全勝してるのにあんなに大差で負けるなんて……私が素人で賭け方が下手なだけなかなぁとか思ってたら……ぐぬぬ」
……あ~これ、絶対アリスだ。マキナさんとアリスは親友同士という話だったし、たぶんマキナさんが神になる前に一緒に豪華客船に乗ったことがあったのだろう。
それで、その際に勝負かなにかをしたのかな? そして全知の力を持つマキナさんに対して、まっとうに勝負をしては不利と考えたアリスが、初心者かつ親友として己を信用しているマキナさんに嘘を吹き込んで勝利したと……。
「そ、それはなんというか、ズルいですね」
「そうなんだよ! 酷いよね!! そんなことしといて、さも当然の権利みたいに罰ゲームとか言ってきたんだよ!? あの時は普通に負けたんだと思ってたけど、あとになって騙されてたと気付いた時の私の気持ちときたら……」
「たぶん……というか、確実にそれアリスですよね? まぁ、アリスならやりそうではありますが、後に気付いた時に文句言ったりは?」
「あ、あ~……言ったね。よくも騙してくれたよねって怒ったんだけど……『大好きな親友であるマキナとは、出来れば対等な勝負がしたくて全知へのハンデのつもりで言っただけど、ちょっとハンデを大きくし過ぎたみたいで、ごめんね』って言われちゃうと……ん~まぁ、ほら、私の全知もズルなわけだし、最初っから全知無しでって提案しなかった私も悪いし……親友だしなぁ、対等でいたいって気持ちも分かるしなぁ……えへへ」
「…………」
いや、ちょっろ!? 完全にいい様に言いくるめられているというか、「大好きな親友」と言われたことに関して嬉しそうですらある。
たぶんこれ、この一件だけじゃないな……マキナさん、アリスに対してだいぶチョロい感じがするし、他にもいろいろ言葉巧みに言いくるめられてそうな気がする。
さっきまでの怒りはどこへ消えたのかというほど、ニコニコと楽し気にアリスとの旅の話をするマキナさんを見て、普段は知り合いの中でもぶっちぎりにヤバい方という認識ではあるが、なんというか微笑ましい気持ちになったというか、結構印象が変わった気がした。
シリアス先輩「そっか、アリスに対しては全知を基本使わない上に親友として信頼感が凄いから、だいたい言うことをそのまま信じちゃう上に、あとでバレてもアリスに対して甘々だからすぐ誤魔化せるのか……」