神とコッペパン
気が付くと俺は金網とコンクリートが印象的な、学校の屋上と思わしき場所に居た。とりあえず、状況を整理しよう……香織さんの店にノインさんと一緒に行き、そこにオリビアさんが加わりつつ後のパーティの話などを交えて雑談を行った。
特に問題もなく話は終わって解散となって、家に戻った後は普通に一日を過ごして眠りについた……と思ったら、この状況である。
うん。そうなるともう、この状況が誰によって引き起こされたのかは理解できた。そしてそんな俺の予想を肯定するように明るい声が聞こえてくる。
「やっぱ、学校の屋上って青春感を感じるよね!」
「そうですね。まぁ、俺の居た高校は屋上は解放されてませんでしたが……」
「あ~そういうのって多いよね。創作とかだとよく見るけど、実際は安全面とか配慮して解放されてない場合が多いよね」
「ですね……あ、とりあえず、こんにちは、マキナさん。いまこれって、夢の中ってことでいいんですよね?」
「こんにちは、愛しい我が子。今日もとびっきりに可愛いね! うん! いつも通りここは我が子の夢の中だよ~今日は屋上にしてみた!」
現れたのは機械の片翼と虹色の瞳が特徴のエデンさんの本体ことマキナさんであり、彼女はたびたびこうして俺の夢に干渉してくる。
その間の記憶を起きている時には忘れているので、こうして夢で遭遇すると……「ああ、なるほど」と思うことも多い。特に真名さんに関しては、こうして記憶の引継ぎがあればまんまマキナさんであると分かったりする。
そんなことを考えていると、ニコニコと明るい笑顔を浮かべたマキナさんがなにやら紙パックの牛乳らしきものと、包装されたコッペパンを差し出してきた。
「今日のおやつは、コーヒー牛乳とコッペパンだよ! 学生っぽいでしょ? このコッペパンなんだけど、イチゴジャムとマーガリンが入ってるやつでね。私はこれが一番美味しいと思うんだ」
「確かに、その組み合わせは間違いないですね」
「うんうん! もちろん他の果物系のクリームとかでも美味しいんだけど、やっぱりイチゴジャムとマーガリンの組み合わせが最高だと思うなぁ。フランスパンとかじゃ駄目なんだよね。コッペパンだからこそ、このふたつの味をグッと引き立てるんだよね!」
相変わらず全知全能の神様の割に庶民的というか、驚きの親しみやすさである。エデンさんの姿の時はヤバい感じが強く先行しているが、マキナさんの状態のときはなんというか……神様相手に失礼かもしれないが、ポンコツ感が強いせいか親しみやすい雰囲気がある。
いや、実際この状態でもヤバい時はヤバいんだが……。
とりあえず屋上の縁に腰かけ、マキナさんから貰ったコッペパンとコーヒー牛乳を頂く。コッペパンって結構久しぶりに食べたけど、マキナさんの言う通りこの素朴な味わいがなんとも絶妙な美味しさである。
「パンで言うとさ、メロンパンってあるよね?」
「ありますね」
「アレって、上のクッキー生地がサクサクしてる方がいいやつって認識だけどさ、私は上の部分が湿ってる感じの……べちゃってしてるっていうと言い方が悪いかもしれないけど、そういうタイプのメロンパンもすごく好きなんだよねぇ」
「あ~分かります。なんか歯の裏にくっついたりしますけど、あのしっとりした感じにはサクサクしたやつには無い美味しさがありますよね」
「そう! そうなんだよ! さすが、愛しい我が子は分かってるね」
エデンさんの姿の時には穏やかな会話が多い。エデンさん自体が週5ぐらいの頻度で来るので話す機会は多いが、基本的に暴走を抜きにすれば穏やかにこちらの話などを聞いていることが多い。
対してマキナさんの状態の時には、結構アレコレと話を振ってくることが多い。マキナさん自体の性格が明るいこともあって、こうして話しているのは非常に楽しい。
いやもちろん頭に「暴走していない状態である場合」という注略は付くのだが、少なくとも以前ほどの苦手意識は無くなってきている気がする。
「俺はアレが好きですね。レーズン入りのロールパンの中にマーガリンが入ってるやつ」
「あ~あるよね。アレもすごく美味しいし、温めると美味しさがさらに上がるんだけど、温めた場合は噛んだ時にマーガリンが染み出ちゃうリスクがね」
「分かります。手に付いちゃうんですよね」
「そうそう! しかも全部そうなるとかじゃなくて、染み出たりでなかったりするから難しいよね。いや、それでも美味しいから温めちゃうんだけど……レーズンが入ってるのだと、蒸しパンとかも……」
表情をコロコロと変えつつも明るく笑うマキナさんを見ていると、思わずこちらも笑顔になってくる。
そのまましばらく庶民派で明るいマキナさんとのパンの話題で盛り上がりつつ、しばしの間なんとも言えない穏やかな時間を過ごしていた。
シリアス先輩「あれ? 意外とマキナに対しての評価は悪くないのか……何度も『ただし暴走してない場合に限る』みたいなことは言ってるが、それでも結構親しくなってる感はある」