勇者と定食屋⑧
しばらくノインさんと香織さんと雑談を楽しんでいたのだが、ここに来たもうひとつの目的を思い出したので、香織さんにそのことについて話すことにした。
「そういえば香織さん、実はちょっと相談したいことが……今度、知り合いを招いてパーティっぽいことをしたいなぁって思って計画してるとこなんですが、その時の料理を日本食中心……この世界で言うところの異世界食を中心にしてみたいなぁと思ってて……けど、当たり前ではありますが知り合いに料理が得意で日本の料理に詳しい人が少なくて、その辺りを相談出来ればなぁと……」
「あ~なるほど、確かにこの世界だと米食がそもそもマイナーだし、知らない人も多いよね。だけど、確かに快人くんが主催するなら、そういう類の料理がいいかもね」
実際はアリスとか詳しそうな人はいるにはいるのだが、やはり異世界の料理と言ってパッと思い浮かぶのは香織さんだった。
香織さんは定食屋なのでレパートリーも多いし、この世界の人たちの好みに合った日本食も十分に把握していそうなのでかなり頼りになる。
合わせてここには、日本の食材に詳しいノインさんも居るので、相談するには非常にいいタイミングではある。まぁ、問題としてはまだ招待する人とかを決めていないザックリとした構想の段階なので、献立を決定するというよりはあくまでどんなものがいいかの相談である。
「要するにホームパーティみたいなことをするから、出す料理に関してアドバイスが欲しいってことだよね……うん。それならいっそ私も協力しようか?」
「え? それはありがたいんですが、大丈夫ですか?」
「もちろん、お姉さんにドーンと任せてくれていいよ。それで、人数はどれぐらいになるのかな? 20人ぐらい?」
なんと香織さんがパーティの料理関係に協力してくれるらしい。この場合の協力というのは、メニュー作りのアドバイスだけじゃなくて、調理とかも含めて手伝ってくれるということらしい。
申し訳ないという気持ちはあるが、香織さんはかなり乗り気というかここぞとばかりに先輩感を出そうとしている感じがしていて、なんというか……ちょっと微笑ましい。
お姉さん感というよりは、背伸び感を感じるが……それを指摘するのは野暮だろう。
「それじゃあ、せっかくなのでお言葉に甘えさせていただきますね。店とかもあると思うので、あまり無理はしないようにで大丈夫なので、人数は詳しく考えてないですが100人前後になるんじゃないですかね?」
「…………思ったより多いね。そういえば、快人くんって知り合い多いもんね。ま、まぁ、そのぐらいならたぶん大丈夫だよ」
「……香織さん、あまり安請け合いはしない方が……」
クロから貰った魔導船の希望を考えると、もっと人は呼べると思うけど……今回は知り合いに限定するので、そんなものだとは思う。
知り合いのみだとすればもっと少ないとは思うけど、ライズさんとかクリスさんとかは護衛とかも一緒に来ないわけにはいかないだろうし、その辺も考えて100人前後である。
「大丈夫ですよ。私こう見えて料理は結構得意ですし、たまには快人くんに先輩らしいとこ見せて年上の威厳というのを取り戻したいとこですしね」
「いえ、そうではなく……快人さんの主催のパーティですよ? 間違いなく各界のトップが集結すると……」
「え? い、いやいや、そんな、確かに快人くんの交友関係は凄いですし、私も普段は胃が痛くなる思いですけど、そういう人たちは忙しいですし全員来たりは……」
「快人さんの誕生日には、六王と最高神様と創造神様と三国王が全員来ましたよ」
「………………あ……やっぱ、さっきの無しとか……で、でも、いまさらそんなこと言うと私の先輩としての威厳が……」
俺が考え事をしている間にノインさんと香織さんがなにやら小声で話しており、俺の耳には会話の内容は聞こえてこなかったが、香織さんの顔色が非常に悪いことだけは気になった。
「ともあれ、よろしくお願いします、香織さん! すごく心強いです……また詳しい話は後ほどということで」
「……ウン……マカセテ……」
なぜか、香織さんが全てを諦めたような目をしていたのが、凄く印象的だった。
シリアス先輩「……なるほど、安請け合いして失敗するタイプか……」