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勇者と定食屋⑥



 松茸の話題が出たことで、必然的に話は日本の食材に関するものに移行していった。というか、俺と香織さんがノインさんにいろいろ聞いている形である。


「へぇ、じゃあ、ウナギも普通にあるんですね。あんまり見たことなかったので……」

「ウナギはハイドラ王国ではなくアルクレシア帝国の特産品なので、若干見つけにくいかもしれませんが、普通にウナギの蒲焼などが出店にあったりもしますよ。ただ、若干マイナーな……珍しめの食べ物という認識ですかね」


 興味深そうに尋ねる香織さんに、ノインさんが軽く苦笑しつつ言葉を返す。この世界ではウナギは一種のB級グルメとかそんな感じなのかもしれない。そもそもこの世界では米食がマイナーだし、白米と相性抜群のウナギの蒲焼はそこまで大人気というわけではないのだろう。

 ただ、マイナー寄りではあるが普通に出店とかもあるみたいなので、見かけたら是非食べてみたいものではある。


 そんな風にしばらく話をしていると、ノインさんがふとなにかを思い出したような表情を浮かべる。


「ああ、そういえば……宣伝のようになってしまうのですが、香織さんはこういったものに興味はありませんか?」

「これって、醤油と味噌……あっ、それに豆腐ですね」

「はい。私が監修している店舗で取り扱っている商品なのですが……」

「え? ノインさん、お店を持ってたんですか?」


 ノインさんがマジックボックスから取り出して並べたのは、醤油味噌豆腐のみっつであり、どれもちゃんとした容器に入っており、ノインさんの言葉通り商品っぽい。

 けど、ノインさんが店舗を持っていたなんてのは初耳である。漢字の書をクロの店に卸したりしているという話は聞いていたが……。


「ええ、実は前に快人さんに相談に乗ってもらって始めた書の販売の売れ行きがよくて、クロム様がいっそ日本の商品を専門に取り扱う店舗を用意していろいろ監修してみればいいと、店をひとつ用意してくれました。普段私が、あまり仕事等の収入がないことを気にしていたので気を使ってくださったのだと思います」

「なるほど……でも、確かに日本の品を取り扱う……それも拘りのあるノインさんが監修しているとなると、かなり品質も高そうですね」


 さすがはクロというべきか、ノインさんにポンと店舗をくれたらしい。確かにノインさんは立場的に商会などで働くのが難しく、それを気にしているところがあったのでいいと思う。

 そして、そこで取り扱っている商品を日本の定食を取り扱う香織さんに販促というわけか……。


「ええ、素人ではありますが、私も1000年近く醤油や味噌を改良してきましたので、味には自信があります。豆腐に関しても、アイン様に協力を得て以前よりも改良を加えた自信作です。こちらは試供品なので、よかったら試してみてくれませんか?」

「じゃあ、せっかくなんで少し……あっ、凄い! これ滅茶苦茶美味しいですね! どれもウチの店で扱ってるものより遥かに品質がいいですね。本当に仕入れたいぐらいです」

「是非、こちらとしても取引先を開拓中なので……私があまり人前に顔を出せない関係上、取引先の開拓は普段人に任せていますので、後日こちらに来させますので値段などはその際に相談しましょう」

「はい! よろしくお願いします!」


 どうやら香織さんもノインさんの作った品々を気に入ったみたいで、かなり現実的に仕入れの話が進んでいく。まぁ、最終的に詳しい話は担当の人と後日行うという形で纏まったのだが、その際に俺はふとあることが気になったので尋ねてみることにした。


「そういえば、香織さんの店って豆腐を取り扱ってますけど、これってどこかから仕入れてるんですか?」

「ううん。豆腐を作ったり販売してる商会とかは見つからなかったから、重さんに作り方を教えてもらって自分で作ってるよ。けど、素人仕事だからか舌触りとかいまいちで……いい豆腐が欲しいなぁと思ってたから、今回の話は本当に嬉しいよ!」


 以前ノインさんが俺に豆腐の作り方を聞いてきたことからも分かるように、この世界に豆腐は流通していなかった。いまはノインさんが店舗で販売していたりするみたいなので、今後は流通してくるかもしれないのだが……。

 あまり気にしていなかったが香織さんの店の味噌汁などには豆腐が入っていたので、どこから仕入れているのかと思ったら自作していたみたいだ。

 ただ本当に自分の店で使う分しか作っていなかったみたいなので、ノインさんにとって意図的に避けている友好都市にある店ということも相まって、ノインさんは俺に会うまで豆腐の存在を知らなくても無理はない。


 しかし、こうして同郷で集まっていろいろ話すと新しい発見があって楽しいものだ。ノインさんが1000年以上こっちの世界で生活しており、俺たちに比べて日本の食材にあたるものに詳しいということもあるのだろうが、それでも非常に話が盛り上がっていた。




シリアス先輩「ある意味で、世界で唯一ノインの情報収集圏外といっていい友好都市に豆腐があったのは皮肉か……重信の方も自分で食べる分しか作って無さそうだし……アリスに聞いたら分かったかも? いや、でも、快人いないとそもそもコンタクトを取るのが大変ってクロも言ってたような……どっちにしろ豆腐の情報を手に入れるのは難しかったのか……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 文字通り"世界"と知り合いだからなぁ。
[良い点] 鬼門にしていた都市に長年探し求めていたものがあったとは・・・確かにアリスちゃんなら知ってただろうけど。 [一言] 衝撃ノインさんがお店を持っていた!初期の頃はお小遣いもらって生活してたのに…
[一言]  え、ウナギがいるんだ。ハイドラ王国ではなく、アルクレシア帝国なんだね。トリニィアのウナギも海で生まれて川を上るのだろうか?  ノインさんが店舗持ちだったなんて……約1000年の間ニートだ…
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