アニマとの海水浴⑥
さてボートといっても、クロとジークさんと乗ったバナナボートではない。普通のゴムボート……を、少しレジャー寄りに可愛らしくした感じのものだ。
結構大きめのサイズであり、俺が寝っ転がっても余裕があるぐらいの大きさだ。マジックボックスのいいところは、こういう品を膨らませたまま入れておけるので取り出してすぐ遊べるという部分だ。まぁ、あくまで容量に余裕がある場合に限るが……俺のマジックボックスは大き目の島ぐらいあるので全然余裕である。なんなら家でも余裕で入る……出すとき困るので入れないが、ああいや、アニマと釣りの時に使ったやつがあるので、家が入っていると言っても過言ではないか……。
「これに乗ってのんびりしようかと思うんだけど、流されないようにどこかにローブでも括りつけておこうか」
「それでしたら自分にお任せください!」
せっかくの大き目のボートだし寝っ転がったりもしてみたいのだが、波に流される危険がある。いや、まぁ、仮に流されても転移魔法で戻れるのでなんの問題も無いのだが、避けられるトラブルは避けていくべきだろう。
そうして紐を探そうとした俺に対して、アニマが任せてほしいと告げてきた。断る理由も無いのでアニマに任せると、アニマは海辺に手を向け魔法陣を出現させる。
直後にアニマの手から半透明の杭のようなものが飛び出し、それが砂浜に突き刺さるとゴムボートに向けて同様に半透明の鎖が伸び、杭とゴムボートを繋いだかと思うと……杭も鎖も何事も無かったかのように消えてしまった。
「……えっと、いまのは?」
「対象の行動範囲を限定させる魔法です。効果が継続している限りは、あの砂浜の地点から一定距離以上はゴムボートが離れない状態となります」
「なるほど、それは凄い魔法だね」
「ああ、いえ、結界魔法の入門のような魔法なのですが……ある程度魔力がある相手には簡単に無効化されるのと、効果時間も長くて1日程度の割に魔力消費も大きめなので、あまり有用とは言えませんね。要所要所で使えば便利ぐらいの魔法です」
一日の間、特定範囲内に物をとどめておけると考えれば、結構有用そうに見えるが……伯爵級レベルのアニマが「魔力消費が大きめ」というぐらいだから、たぶん相当魔力効率の悪い魔法なのだろう。
いちおうアニマが無理をしていないか気になったが、全然問題は無さそうだ。まぁ、考えてみれば魔法の中で最大級の魔力消費と言われている転移魔法でも、伯爵級レベルならいくらでも使えるぐらいなわけだし、あくまで他の魔法と比較すれば消費が大きいという程度なのだろう。
……まぁ、たぶん俺が使えば早々に魔力切れになるんだろうけど! いいなぁ、魔力量大きいの……。
「まぁ、これで安心して楽しめるね。ありがとう、アニマ」
「ご主人様のお役に立てたのならなによりです!」
「じゃあ、さっそく乗ってみようか」
「はっ、自分が押さえておきますので、お先にどうぞ」
「それじゃ失礼して……よっと、おぉ、揺れる……けど結構安定してるね」
「立派な作りですからね。それでは自分も失礼して……」
大き目のボートはかなり安定した感じで、サイズ的にもアニマとふたり乗っても結構余裕はある。ふたりで寝転んだりすると多少は手狭になる気もするが向かい合うような形なら大丈夫だ。
「アニマ、この魔法ってどのぐらいまでの距離離れられるのかな?」
「かなり広めにしているので、それなりに遠くても大丈夫です。むしろメインとしては、魔法の中心点……あの砂浜の位置が術者である私には分かっているので、仮に沖に出過ぎても迷うことがないという形です」
「なるほど、それなら安心だ」
「まぁ、このボートで行けるぐらいの距離でしたら、目視で十分見えるので問題はありませんが……」
まぁ、とりあえずはアニマが居れば海で遭難する心配はないということだろう。それにいざとなったら転移魔法もあるし、マジックボックスの中に……中に……。
「……ご主人様?」
「そういえばさ、六王祭の記念品で貰った最新が魔導船使ってないなぁと……」
「あ、ああ、ありましたね! クロムエイナ殿の記念品……しかし、あれは、ふたりで使うには巨大すぎませんか?」
「そうなんだよなぁ……なんか、船上パーティとかでも企画しないと使い道が……まぁ、あとりあえずいまはのんびりボートを漕いで遊ぼうか」
「はい!」
海に来たことで思い出したが、貰うだけ貰って一度も使ってない船がマジックボックスの中にある。そしてアニマの言う通り超巨大だ。豪華客船って感じのサイズなので、海のレジャーとかで使うような代物じゃなくて、本当に船旅とかでもしない限り使わない気がする。
う~ん。でも、まったく使わないのもアレだし、また今度有効活用できないか考えてみよう。
シリアス先輩「あったなぁ、そういうの……」
マキナ「先輩、先輩、次はパチパチ弾けるキャンディーになって欲しいな。粉々に砕いてチョコレートと一緒に食べるから」
シリアス先輩「炭酸ガス入りのキャンディになれってか!? アレは特殊な設備で作るもんで、普通に作れるやつじゃねぇんだよ……いや、そもそも、狙って成れるわけないだろうが!!」
マキナ「大丈夫。ちゃんとパチパチキャンディーになれるよ。だって『私がそう決めた』からね!」
シリアス先輩「おいこら、全知全能……そんな回りくどいことせずに、自分で完成品出して食えよ……」
マキナ「それはそれ、これはこれ……シリアス先輩、君を……食べたい」
シリアス先輩「その台詞が性的じゃなくて文字通りの意味で使われることってあるんだ……というか、当人の目の前で粉々に砕いて食う宣言とか頭イカレてんのかコイツ………‥イカレてたわ……」