アニマとの海水浴⑤
海辺に到着すると、さっそくレジャーシートを引いてパラソルを設置した。流石は富裕層向けのプライベートリゾートというだけあって、以前行った海水浴場にも負けず劣らず綺麗な砂浜である。
「まぁ、海での遊びといってもガッツリ泳ぐだけじゃないし、海辺でのんびりするのも魅力的だよね」
「そうですね。ハイドラ王国は温かい気候ですし、今日は非常に天気もいいですから日差しが気持ちいいですね」
「アニマは暑いのとかは平気?」
「自分は特には……魔力である程度制御しているというのもありますが、どちらかというと寒い方が苦手ですね。ご主人様はいかがですか?」
アニマは暑いのより寒いのが苦手らしい。ブラックベアーが冬眠するかどうかは知らないが、基本的にアニマはいつも長袖長ズボンに手袋、毛皮のマントという服装なので普段から暖かそうな格好ではある。
「こっちに来てからはシロさんの祝福のおかげで気温の影響はほぼ受けないんだけど、どっちかと言えば暑い方が苦手だったかな? ほら、寒い時は着こんだりすればある程度対策できたけど、暑いのは薄着になるって言っても限度があるからね」
「なるほど、ご主人様の居た世界には魔法なども無かったと聞きますので、体感温度の調整は大変そうですね」
「まぁ、エアコン……えっと、室内の温度を調整する機械があったから室内とかは大丈夫だけど、外を出歩く時はたしかに……まぁ、でも、こっちの世界でも体感温度を調整できる魔法を外出中に常時展開できるのは少数じゃないかな?」
「た、確かにそうですね。自分の周囲に当然のようにできる者ばかりだったので、どうにも誤解してしまいますが……言われてみれば魔法自体を使えない人もいるわけですし、誰もがこの対策をできるわけではありませんね」
「あ~でも、その感覚は俺も分かるよ。周りが凄い人ばっかで、基準が上がってるってのはあるね」
俺の場合で言うと特に金銭感覚とかそうかも……周りがお金持ちばかりだからか、どうにも金銭感覚が狂ってきてる自覚はあるので、本当に気を付けないと……そういう意味では、香織さんとかは実に貴重な友人であり、話してると知らぬ間にズレていた認識を実感したりする。
「けど、せっかくだしまずは軽く海で遊ぼうか」
「はい」
「単純に泳いでもいいけど、アニマはなにかしたいこととかある?」
「む、難しい質問ですね」
「ああ、あんまり海に来たことがないから?」
アニマが海に遊びに来たのは前回の海水浴振りである。そして、前回の海水浴の際にもアニマは主にアリスと共にバーべーキューの準備をしており、そこまで海で遊んでいたという感じは無かった。
俺が参加して少し遊んだのと、その後のビーチバレーぐらいだろうか? そうなると単純に海での遊びをよく知らないという可能性もある。
いや、まぁ、別に俺もよく知っているわけではないのだが……ビーチバレーとかスイカ割りとかそのぐらいだ。シュノーケリングとかその辺りは、素人にはよく分からないので道具があっても難しそうだ。
「ああ、いえ、もちろんそれもあるのですが……それ以上に、えっと、いまこうしてご主人様と居るだけで凄く幸せで、すぐには思いつかないというのがありますね」
「ふふ、そっか……じゃあ、とりあえず俺に付き合ってもらおうかな? 途中で何か思いついたら教えてね」
「はい! お供します!」
いちいち可愛らしいアニマに和みつつ、とりあえずここは俺がリードする形で海に遊びに行く。といっても海に浸かって軽く泳ぎつつ、アニマと雑談するだけだがそれでも十分楽しい。
「あっ、そういえばゴムボートみたいなのもマジックボックスに入ってた気がする」
「そうなのですか? さすが、ご主人様は準備がいいですね」
「いや、前の海水浴のあとにクロからいろいろ貰ったんだ。たぶんクロの商会の商品だと思う」
「……クロムエイナ殿は本当に手広くやっていますね」
クロは前の海水浴の時にバナナボートとかを持ってきており、たぶん異世界の知識で作ったものだろうが、彼女の性格上そういった商品は売れると見込めば商会で販売したりする。
実際、こうしたプライベートビーチや以前ラグナさんが海水浴のビーチに宣伝効果を求めたりしたことから、この世界でも海のレジャーは比較的一般的なもののようだし、そういう商品も需要があるのだろう。
「いまさらだけど、この世界でも海の遊びって結構メジャーなんだね」
「マーメイド族などの海辺で生活する種族も複数居るので、その影響かもしれませんね。ある程度歴史があれば、その中で自然と娯楽も生まれてくるものですね」
「なるほど……まぁ、とりあえず、ゴムボートにでも乗ろうか」
マーメイド族とかそういう種族の遊びが伝わったりしているなら、海辺だけじゃなくて海の中で行う遊びとかもあるかもしれないと、そんなことを考えつつマジックボックスからゴムボートを取り出した。
シリアス先輩「はっ……あ、危ない。少し箸休めか……このタイミングで体力の回復をしなければ……」
マキナ「チョコレート化に体力とか関係してるの? うん……美味しい!」
シリアス先輩「私が変貌していたチョコレートを溶かしたであろうものを使って、マシュマロをフォンデュしながら、ごく普通に話しかけてくるやべぇ奴に対して、私はどんなリアクションを取れば……」