アニマとの海水浴③
目が覚めると布団の中に別の部屋で寝ているはずのアニマが居て、互いに抱き合っているような状態だった。自分でもなにを言っているかよく分からないが、事実としてそうなのだ。
柔らかく温かく、なんというか抱き心地のいいアニマの体をこのまま抱きしめて、若干残る眠気の中で二度寝とかすれば気持ちよさそうではあるが、そんなことより状況の確認をしなければならない。
アニマを見ると明らかに青ざめた表情を浮かべているが……。
「えっと、アニマ……おはよう。その、この状況は……」
「ちっ、違うのです! 確かにここはご主人様の部屋で、ご主人様の布団で、状況から見て自分がご主人様の布団に潜り込んだように映るかもしれませんが、自分にもまったく心当たりが無く気が付いたらこの状態だったのです! い、いえ、自分が無意識のうちにご主人様の部屋に移動して布団に潜り込んだと言われれば、状況的にそれを否定するのは難しいですし、確かに昨晩少しの寂しさを感じてはいましたので動機もあると言えばあるのですが……」
必死に説明しようとしつつも、寝ぼけて無意識に潜り込んでしまったかもしれないという部分には自信が無いのか、少し声が小さくなっていた。
いやでも、寝ぼけていたとしても自分の部屋から俺の部屋に移動して布団に潜り込む確率は低そうな? アニマの様子を見る限り夜中に起きた心当たりとかもなさそうな感じがする。
そんな風に考えていると、唐突に俺の目の前空中に光る文字のようなものが浮かび上がった。これには見覚えがある。この世界に来たばかりの頃にクロが俺の部屋に残していたのと同じ、魔力による書置きのようなものだ。
『お膳立てをしておいたので、恋人同士心行くまでいちゃいちゃしてください。超絶美少女キューピットより』
……あの馬鹿の仕業か。まぁ、確かに伯爵級レベルの実力を持つアニマに気付かれないように別室に移動させられるとなると、アリスレベルじゃないと無理なのかもしれない。
にしても、自分がやったら照れまくって逃げる癖に、他の恋人に関してはこういうおせっかいというかアレコレとやるもんだ。
「……アニマ、落ち着いて、犯人が分かった」
「え? は、犯人……あっ、これは……」
「うん。どうやら、アリスがアニマが寝ている間に俺の部屋に運んだみたいだよ」
「そ、そうだったのですね。なるほど、アリス殿であれば自分が気付かなかったのも納得です。おそらくアリス殿は、昨晩自分がご主人様と別々の部屋で寝ることに自分でも説明できない寂しさを感じているのを察し、気を利かせてくださったのでしょうね」
「そ、そうだな」
たぶん、大半悪ふざけの一貫だと思うんだけど……アニマからアリスへの評価は極めて高いので、自然といい方に解釈しているっぽい感じだ。
というか先ほどから言ってる通り、アニマ自身も心のどこかで俺と一緒に寝れたらいいなぁと思っていたような感じがする。まぁ、真面目なアニマのことだからそれは抑え込んでいたのだろうが……。
「ところでアニマ、まだ外暗いよね?」
「あ、そうですね。いますぐに時計は確認できない状態にあるのですが、4時か5時かその辺りかと推測できます」
「なるほど……」
「あ、あの、ところでいつまで自分たちはこの状態で……」
まだ日は登ってないし、若干の眠気もある。このまま二度寝してしまうのもいいだろう。
「ん~せっかくだし、このまま二度寝しようか? もちろん、アニマさえ嫌じゃなければだけど……」
「あっ、その……こうして、ご主人様と密着したまま、ということですか?」
「うん。いやかな?」
「いえ、その、むしろ嬉しい……ですが……従者としてはあるまじき……」
「じゃ、寝て起きるまでは従者はお休みで、ひと眠りする間は従者や主人とか関係なく恋人同士として……ね?」
そう告げて軽くアニマの体を抱きしめると、すぐに眠気が表に出てくるようだった。人肌の温もりは安心するというが、まさにそんな感じというかとても心地良い。
互いに布団に入ってることもあって、温かめの体温になっているからより一層心地よく感じるのかもしれない。
「……はい」
そして、俺の提案をアニマは了承してくれたようで、はにかむ様に笑ったあとでギュッと俺に抱き着いて、首元に顔を擦り付けるように甘えてきた。
普段は従者然としようとしてどこか遠慮しているが、こうやって甘えたいという気持ちもあったのだろう。可愛らしいアニマの頭をできるだけ優しく撫でながら、そのまま心地良いまどろみに沈んでいった。
マキナ「うんうん。ラブラブでいいねぇ……けど、う~ん。やっぱり固形になっちゃったね」
???「マキナが言った通り体の半分はホワイトチョコに……本当にどういう生態してんすか、シリアス先輩……」