アニマとの海水浴②
朝起きたら快人の部屋で快人と同衾していたという未知の状態に混乱し、一度は完全に思考を飛ばしたアニマだったが必死に踏みとどまるように思考を戻す。
(……窓から日が差し込んではない。すぐに時計は確認できないが夜明け前と考えてよさそうだ。体感ではあるが確実に数時間は眠っているし、早朝。そして内装から見るに間違いなくここはご主人様の部屋……か、考え辛いが現状得られる材料からは、自分がご主人様の部屋に来て同じ布団に入ったと考えざるを得ない。な、なんたる不敬……従者の枠など越えた不敬ではないか……と、とりあえず、パジャマを着て寝る習慣が身に付いたあとだったのは幸いだったが……ともかく、いまは布団から出なければ……眠っているご主人様を起こさないようにゆっくりと……)
状況などからみてどうしても、アニマ側が眠っている快人の布団に潜り込んだとしか考えられず、アニマとしては全力で頭を抱えて「なぜだ」と叫びたい気持ちでいっぱいだったが、それ以上に現状からの脱出が急務だった。
快人と一緒に入っている布団の温かさには後ろ髪を引かれる思いではあるが、それでも現状は快人に無礼すぎると考え、そっと布団からでしょうとしたアニマだったが……。
「んん……」
「~~~~~~!?!??!?!?」
眠っている快人が身じろぎをしたかと思うと、そのまま目の前のアニマの背に手を回して抱きしめた。それは抱き枕を抱くような、完全に眠った状態での無意識化での行動ではあったが、アニマが声にならない叫びをあげるには十分すぎる破壊力のある行動だった。
(あばばば、ご、ごご、ご主人様に抱きしめられ……はわわ……ご主人様の匂いが、温もりが……幸せ……ではなく!? な、なんたる失態。完全に注意力不足だ。よ、よもやこんな事態になろうとは……し、しかし、これでは、脱出が……)
眠っている快人に力の加減などあるわけもなくギュッとしがみつく様にアニマを抱きしめているが、それでもアニマの実力から見れば引きはがすのは容易い。
容易いのだが……それをしてしまうと、快人を起こしてしまう危険が高い。ただでさえ布団に潜り込むという不敬をしている上にそんな無礼はできない……というより単純に現在の状況で快人が目を覚ましてしまえば、もうアニマとしてはどうしていいか分からないし、言い訳も思いつかない。
(……うぅ、だ、駄目だ、これは刺激が強すぎるというか、あまりにも心地よ過ぎて思考が全然冷静にならない!? も、もういっそ、このままご主人様に抱きしめられていれば……ご主人様を起こすわけにはいかないわけだし、不可抗力で……い、いや、待てアニマ、冷静になれ!? 仮にご主人様がこの状態で目を覚ましたらどう言い訳するつもりだ!!)
一切音を立てずに顔だけ百面相するという無駄に器用なことをするアニマ……彼女は事前に覚悟をしていれば、気恥ずかしさなどはある程度大丈夫なタイプだ。
恋人であると同時に従者でもあるという気持ちをしっかりと持って、ある程度己を律しているからこそ予測済みの事態には冷静に対応できるし、恋人らしいスキンシップに慌てることもない。
ただそれは、予想できる事態に限定されるため、風呂場でそうだったように不意打ちに弱い。そして現状はまさに完全なる不意打ちであり、もはや冷静な思考を取り戻すのは不可能だった。
というか普段己を律してはいるものの、アニマの快人に対する好意は非常に大きい。なんなら、ふたりきりならもっといっぱい甘えたいとも思っているぐらいだ。
頭ではどう考えていても体は正直というべきか、アニマ本人すら無意識のうちに彼女の手は眠る快人の背に回され、気が付いた時には快人を抱き返していた。
(って、自分はいったいなにをやっているのだぁぁぁ!? き、気付いたらご主人様に抱き着いて……な、なんたる愚かな行いを……だが、しかし、うぅ……この温もりは抗いがたく……あぅ……頭がとろけそうで……あぁ……寝てるご主人様もカッコいいし、抱きしめられて嬉しいし、ご主人様の匂いに包まれてみるみたいで幸せだし……ふぁ……好きぃ)
あまりにも幸せ過ぎる状況が理性を溶かし、アニマは快人に抱き着いて首筋に鼻先を擦り付けるように甘える。快人が愛おしくて無意識に起こしている行動だが、それはあまりにも甘美な幸福をもたらしアニマの表情は緩みっぱなしだった。
……だが、当然と言えば当然だが、そんな動きをしていていつまでも快人が眠ったままでいるかと言えば、そんなわけもない。
「……んん? ……うん? ……は? え? あ、アニマ!?」
「……あっ……こ、これは……その……」
目を覚まし明らかに驚愕した表情を浮かべる快人を前に、アニマは先ほどまでの蕩け切った顔はどこに消えたのかというほど、一瞬で顔を青ざめさせた。
シリアス先輩「あぁぁぁ、ぐっ、し、しかし、ここでやられてはあのイカレた神の思惑通りになる。そ、それだけは防いで……」
マキナ「シリアス先輩。ホワイトチョコも食べたいんだけど、半分普通のチョコで、もう半分ホワイトとかいけるかな?」
シリアス先輩「お前は私をなんだと思ってるんだ!?」
マキナ「……面白生物?」