頑張り屋に休息を⑪
なんか変な流れというか、やる気に溢れたアニマに押し切られるような形で一緒にお風呂に入ることになり、ふたりで浴室へ移動する。
幸い脱衣所には簡易の仕切りをスライドさせて設置できたので、着替えはそれで問題なかった。着替え終わるとアニマはタオルを一枚巻いた状態であり、アニマはプロポーションもいいのでかなりセクシーな姿で分かっていても若干緊張する。
対してアニマの方は、やはりやる気が羞恥心を上回っている様子であまり気にした感じではなく、風呂用と思わしき網目状のバスケットの中にスポンジっぽいものを含めていろいろと用意している。
「アニマ、大丈夫? 恥ずかしかったりはしない?」
「はっ! 問題ありません! 今回は以前のような失態を起こさぬよう、タオルも大き目のものを用意して状態保存魔法を応用して固定しております」
「……そ、そっか、それなら安心……かな?」
以前の失態というのは、尻尾の付け根を見せようとした件だろうが、それとタオルの固定はあまり関係がないような……まぁ、背中を流している時とかにタオルが外れてというハプニングは避けられるかな?
シロさんの祝福が警戒要素ではあるが、シロさんの祝福の魔法解除効果は状態保存の魔法には適応されないのは確認済みなので、そちらは大丈夫だろは思う。ただ、アニマが『応用した』と言っているので、もしかしたら影響がある可能性もあるので、タオルには触れないように注意しよう。
「あれ? そういえばそのヘアピンって新しいやつかな?」
「あ、はい。こんなこともあろうかと入浴用に購入しました。ご主人様から頂いた大切なヘアピンを濡らすわけには行きませんし、かといってお背中をお流しする際に前髪が邪魔になる可能性もありますので万全を期しています」
アニマは現在オレンジ色のヘアピンで髪を止めている。普段は俺がプレゼントしたマグナウェルさんの鱗を加工したヘアピンを付けているが、その代用という感じらしい。
「そっか、その色のヘアピンも似合ってて可愛いね」
「はひっ……あっ、ありがとうございます」
素直に感じたことを伝えると、アニマはピクッと体を動かしたあと少し頬を染めてお礼を返してきた。そのあとで少し落ち着きなく視線を動かしたあと、深呼吸をしてキリッとした表情に戻る。
「では、ご主人様。さっそくお背中をお流しします。こちらへどうぞ」
「うん。ありがとう」
……これ、たぶんアレだな。羞恥心をかを感じてないわけではなく、同じ失態を繰り替えなさいという強い意志で上書きして抑え込んでいるだけで、一緒に風呂に入ることに恥ずかしさとかは感じてるっぽい。
なので、さっきのように不意を突かれると抑えていた恥ずかしさが表に出てきて落ち着かない感じになるのだろう。
これは、とりあえず背中を流し終わるまでは下手なことを言わずアニマに主導してもらった方が良さそうだ。せっかくここまで頑張ってるのに、崩れてしまっては可哀想だし……。
そんな風に考えながら、アニマに促されて浴室に入ると……そこはなんとも南国チックな風呂だった。
中央に大きな円形の湯船があり、浴室内は白を基調としたかなり明るめなデザインであり、観葉植物っぽいのもいくつかある。
風呂の準備をする時は脱衣所の魔法具を起動させただけだったので、中までは見ていなかったのだが、これは凄い。
「これはまた綺麗な風呂だね」
「確かに、流石富裕層が利用するコテージというだけありますね。あっ、ご主人様こちらに花がありますよ」
「花? ああ、これもしかして湯船に浮かべる用のやつかな?」
「そのようですね。複数の種類がありますし、香りなどの説明が簡単に書かれています」
壁付近には蓋つきのバスケットが置いてあり、中には映画とかで見るようなパステルカラーの花などが入っていて、浴槽にまく感じだった。
せっかくなので浴槽に軽くまいてから、アニマに背中を洗ってもらうために移動する。
「それでは、お背中をお流ししますね」
「うん。よろしくね」
背中を洗い始めるアニマの力加減は実に絶妙で、なんとも言えない心地良さがあった、
「ご主人様、力加減はいかがでしょう? おかしくはないですか?」
「大丈夫。というか、絶妙な力加減な気がする」
「実は、いつこういった機会があってもいい様にと練習をしておきましたので、力加減はバッチリです」
「練習?」
「はい。キャラに付き合ってもらいました……三度ほどキャラの背中をおろして血塗れにしまいましたが、もう完璧です!」
「……そ、そそ、そっか」
こ、こえぇぇ!? キャラウェイの背中がおろされたって、それ力が強すぎて皮を削り取ったってことだよね? ひぇ、想像するだけで恐ろしい。
いや、実際にアニマの力ならそのぐらいはできそうではあるが……と、とりあえず、帰ったらキャラウェイに労いの言葉をかけておこう。
シリアス先輩「というか、恋人全員その気になったら背中ぐらい摩り下ろせそう」
マキナ「……チョコレートがいい」
シリアス先輩「は? いきなり、なに?」
マキナ「話数的に考えて、次で風呂のシーンが終わって、その後でサブタイ変わっていちゃつくよね? もしかしたら次でいちゃつくかもだけど、そういう感じになるよね?」
シリアス先輩「そうだな、嫌な未来だけど、そうなる可能性は高いな……それで?」
マキナ「チョコレートフォンデュしたいから、チョコレートになって欲しいなぁって」
シリアス先輩「……お前、人の心とかないだろ……」