頑張り屋に休息を⑩
日が沈んだタイミングで桟橋からコテージに戻る。先ほど早めの夕食は食べてあるので、あとはコテージ内でのんびりするだけだが、先に風呂場の準備をすることにした。
まぁ、準備といっても設置されている魔法具に触れて起動するだけなのだが……そしてしばらくすると、風呂の準備が整う。
「さて、まだ少し早めの時間だけど先に風呂に入っちゃおうか」
「そうですね。それでは準備をして行きましょう。ご主人様はタオルなどは?」
「ああ、マジックボックスに入ってるよ」
「なるほど、自分も衣類などはマジックボックスにすべて用意があるので問題は無さそうですね」
俺の言葉に反応してアニマが座っていたソファーから立ち上がったのだが……あれ? なんだろうこの違和感。行きましょう? あれ? なんかナチュラルに一緒に入る様な話の流れになってない?
口振りや準備の様子から、アニマは俺と一緒に風呂場に向かう気満々という感じであり、そこに照れた様子などはなくむしろやる気に満ち溢れているような感じだ。
以前にアニマと釣りに行って一泊した際には、かなり恥ずかしがっていたというか緊張していた様子だったし、なんなら途中でテンパって気絶したりしていた。
……あっ、そうか、これはアレだ……「以前と同じような失態はしない」という強い意志が上回っているため、恥ずかしさとかを除外してやる気が満ち溢れているのだろう。
そんな俺の考えを肯定するように、アニマは力の籠った目で俺を見つめながら宣言する。
「ご主人様! 以前は大きな失態を演じましたが、今度は同じ失敗はしません! 従者として、恋人として、ご主人様の背中をお流しする役割を完遂してみせます!!」
「……そ、そっか……うん」
メラメラと燃え滾るようなアニマの決意を見て、俺はある重大な失態を悟った。というのも以前に混浴をした際にアニマはアリスから「恋人同士は混浴して裸の付き合いをするのが決まり」という風な嘘を吹き込まれて、すっかりそれを信じてしまっていた。
そしてあの時俺は、あとで誤解を解こうとそう誓っていたはずなのだが……あの後アニマが気絶するトラブルがあってバタバタしたせいで、その誤解を解くのをすっかり忘れてしまっていた。
今度こそ恋人としてしっかり混浴をこなして見せるという決意に満ちているアニマ……これは、拒否するのは難しい気がする。というか、今回は別々に入ろうとか言ったら「以前の自分の失態のせいで……」とか考えて落ち込みそうだ。
う、う~ん。でも、前回と違って今回は先に分かっているなら、精神的にはある程度余裕がありそうだし、前にアニマが気絶したのも尻尾云々のハプニングがあったせいであり、それが無ければ問題はない。
「……いちおう確認するけど、アニマは恥ずかしくない? 無理はしなくていいからね。あの時は言いそびれたけど、アリスは悪ふざけで言っただけで異世界に恋人同士は混浴しなければならないみたいな決まりはないからね?」
「ご主人様の気遣い、嬉しく思います……ですがどうかご安心を! 自分は決して、同じ失態を二度繰り返したりはしません!!」
「ああ、うん。そっか……じゃ、じゃあ、一緒に行こうか」
「はっ!」
駄目だこれ、完全にやる気スイッチが入っちゃってる。従者モードだ……う~ん。まぁ、やる気に水を差すのもアレだし、アニマの方がいいのであれば俺も別に嫌というわけではない。
恋人らしいことをしようとアニマと約束したわけだし、混浴も恋人らしいといえば間違いなくそうだ。ハプニングとかが起こらないようにこっちで注意して……出来れば以前のような形じゃなくて、アニマも満足する形で混浴を終えられたらいいなぁとは思う。
……とりあえず、いままでのことを考えると風呂場でなにかしらのアクシデントが起こる可能性もあるし、十分に注意しておくことにしよう。
???「おっ、カイトさんが楽観視してないってことは大丈夫そうですね」
シリアス先輩「混浴って時点で私としては嫌なんだが……それはともかく、快人結構混浴慣れしてきたんじゃ……落ち着いてやがる」
???「まぁ、場数が多いですし、相手がアニマさんなのでしっかりしている感じかも?」