頑張り屋に休息を⑨
少し意外ではあったがアニマの方からの提案で、恋人らしくいちゃいちゃすることに決まった。いや、改めてそうやって取り決めてやるようなものでもないとは思うのだが、心の持ちようは大切である。
実際先ほどまでの俺はアニマの慰労を優先にと考えていたわけだし、そう思っているのと恋人としての時間をふたりで楽しもうというのでは行動も変わってくるだろう。
だが、まぁ、それはそれとして……恋人らしいことといっても、具体的にどんなことを? いまの俺たちの状況は、夕暮れの桟橋に腰かけて海面を眺めている状態でムード的には非常にいいといえるだろう。というかもう既に恋人らしいことをしているような気もするのだが、アニマにはもしかしたらこれがやりたいというのがあるのかもしれない。
「……ところでアニマ、恋人らしいことって具体的にはどんなことを?」
「……ッ……」
あっ、これ、とりあえずは提案したもののノープランの顔だ。唐突に理解の及ばない話題を振られたような、キョトンという効果音でも出そうな顔してた。
俺もよく顔に出やすいとか言われるが、アニマも大概表情の変化は分かりやすい。
そのなんとも愛くるしい様子に思わず苦笑しつつ口を開く。
「……なにも考えてなかった感じかな?」
「お、お恥ずかしながら……その、言い訳をお許しいただけますと、そういった方面の知識が不足しておりまして、ブラックベアーだったころには無かったものなので……いえ、もうこの姿で数年過ごしているわけなので、自分の勉強不足以外のなにものでもないのですが……」
言われてみれば、なるほど……確かに、クマがデートしてるとかは想像できないし、少なくともこういった桟橋で並んで腰かけてというシチュエーションはあり得ないだろう。
ブラックベアーから獣人型魔族に転生してまだ3年近くしか経ってないわけだし、アニマの性格上恋愛関連の知識を学ぶ暇があるなら他の知識を身に付けようとするはずだ。
アリスやクロやシロさんのような、既に膨大な知識を持ってる上で恋愛関連は経験を伴っていないある意味では、耳年増と言えるような感じとはまた違って、純粋に頭に思い浮かぶ選択肢が少ないのだろう。
しかし、これはアレだな……俺の方がリードしないといけないパターンだ。けど、俺もそんなに知識が深いというわけでもないし、思い浮かぶ選択肢は大して多くないんだが……まぁ、とりあえずは可愛い恋人のためだし頑張ってみよう。
「じゃあ、例えばこんな感じのは?」
「ひゃっ!? ご、ご主人様!?」
とりあえずパッと思い浮かんだ恋人っぽい行動ということで、隣に座るアニマの肩を抱き寄せてみた。俺に抱き寄せられたアニマは、申し訳なさと嬉しさが混ざったような表情を浮かべており、慌てているように見えるが抵抗したりする様子はない。
というか「この後はどうすればいいのか?」ということに迷っているような感じがする。
「定番ではあるけどね、アニマは力を抜いて俺にもたれ掛かってくれればいいから」
「は、はい。そういうものなのですね」
「うん。遠慮せずにもたれ掛かってくれた方が嬉しいな」
「分かりました。し、失礼します」
素直に俺の言葉に従い、アニマは俺に身を預けてくる。もたれ掛かるような体勢になると、アニマのクマの耳が首元に微かに触れるが……感触が凄く柔らかいというか、髪質……毛質か? とりあえず熊の耳の毛もフワフワで気持ちがいいし、なんか新鮮な感触だ。
「アニマ、どんな感じ? 体勢はきつくない?」
「あ、はい……温かくて心地よくて、ご主人様がすぐ近くにいて……凄くドキドキするのに、落ち着くというか、表現が難しいですが……その、心地よいです」
「それならよかった」
「あの、ご主人様の方はいかがでしょうか? 負担になったりなどは……」
「大丈夫。むしろ俺もアニマと一緒で心地よい気分というか、幸せな気分だよ」
「それなら、よかったです」
俺の言葉を聞いたアニマは嬉しそうな表情で微笑みを浮かべる。耳がピクピクと嬉しそうに動いており、なんとも可愛らしい感じである。
そんなアニマを見ていると、愛おしいという気持ちが込み上げてきて、俺はそっとアニマの頬に空いていた手を添えて、俺の方を向かせる。
「……アニマ」
「あっ……はい。ご主人様……」
さすがにこれはアニマもすぐに察してくれて、顔をこちらに向けつつ目を閉じる。すべてを受け入れるかのようなその仕草も愛らしく、夕日に照らされる中で顔を近づけそっと優しく唇を重ねた。
シリアス先輩「ひぇ、なんか想像より甘い。アレだ……本当にアリスとかと違って、アニマは知識足りないだけで積極的に動くし、照れてても素直に気持ちを口にするからイチャラブ度が高いのか……」
マキナ「シリアス先輩、なんか顔ひしゃげてない?」
シリアス先輩「お前の親友に殴られたんだよ……」