頑張り屋に休息を⑦
食事を終えたあとは、やはりせっかくの海上コテージなわけだし海で遊び……たいところではあるが、残念ながらそもそも出発が遅かったので、もう夕日が見えておりここから海水浴をするには遅すぎる。
「海水浴でもできればと思ったけど、流石に時間が遅いね」
「そうですね。暗い中で海水浴をしては危険があるかもしれません。もちろん、自分が居るので、仮に今から泳ぐことになっても、ご主人様が怪我をするような事態には決していたしません」
「さすが、頼りになるね」
「あ、えへへ、そんな……」
「けどまぁ、暗い夜の海で泳いでもってのもあるし、今日はやめにしとこうか……明日また海水浴に行ってもしいしね」
「あっ、そうですね。日が明けてから行くという手もありますね」
水着に関しては以前海水浴で使ったものを洗濯してマジックボックスに入れているので問題は無いが、いくらリゾートとはいえ夜の海で泳いでも楽しさは半減だろう。
月明かりの海で~などというのもシチュエーション的にはロマンチックではあるが、浜辺を歩いたりするならともかく、泳ぐのはイマイチな気もする。
どうぜ寝て起きてすぐに帰るわけでもないし、海水浴は明日にすればいい。
「けど、このまま何もしないってのも勿体ないし、綺麗な夕日だから桟橋の方に行ってみようか」
「はっ! お供します!」
「お供って言うか、デートなんだからふたりでいこう」
「あっ……は、はい!」
ちょっと固くなっていたアニマに微笑みつつ手を差し出すと、アニマは明るい笑顔を浮かべて俺の手を取った。子犬のような可愛らしさに和みつつ、そのまま手を繋いでコテージから出て桟橋の方に向かう。
たぶん船などを停泊することができるようにと作られているであろう桟橋は、それほど長いわけではないが夕日に照らされてキラキラと光る海の上を歩いているようで、これはまた非常にいい景色だった。
「素晴らしい景色ですね」
「うん。夕日が綺麗だね。それにそうやって景色を楽しむ余裕が出て来たってことは、アニマもリラックスしてきたってことだろうし、慰労の意味も兼ねた小旅行のかいあがったね」
「お恥ずかしい限りです。たしかに、最初より肩の力が抜けてきたような気がします。ご主人様がこうして一緒にいてくださって、私を優しく気遣ってくださるおかげかと……その、いつも至らぬ私を気にかけてくださって、本当にありがとうございます」
「むしろ、俺の方こそアニマにはいっつも助けてもらってるよ。こっちこそ、ありがとう」
桟橋を歩きながらそんな会話をしていると、アニマが嬉しそうに笑みを浮かべる。差し込む夕日なのか、照れているためなのか、表情は少し朱に染まっていて普段とはまた違った愛らしさがある。
そんなことを考えていると、アニマが先ほどまでより少しだけ俺の手を握る力を強めた。
「……嬉しいです。以前のように、焦ったりしているわけではありませんが、こうやってご主人様の口から言ってもらえると、私もご主人様の役に立てているんだと実感できて……なんだかその……幸せです」
「そっか……うん。たまにはこうやってちゃんと言葉にするのも大事だよね。俺は本当にいつもアニマに助けてもらってるし、いろいろ頼りにしてるよ。これからも助けてくれると嬉しい」
「はい! もちろんです!! 自分にお任せください!!」
「まぁ、やる気が出過ぎて無理をするのは駄目でけどね」
「うっ……は、はい。改めて、肝に銘じます」
痛いところを突かれたと言いたげに申し訳なさそうな表情を浮かべるアニマ……もちろん反省はしている。間違いなく反省はしているのだが、それでもやる気のスイッチが入っちゃうとまた頑張り過ぎてしまいそうなところがあるのが、なんともアニマらしいというか……。
「もしまた無茶をしてたら、こうやって強制的に休みに連れ出さないといけないかもね」
「……あの、ご主人様。そう言われてしまうと、またご主人様と出かけたいがために同じことをしてしまうかもしれません」
「いや、むしろそこは普通にちゃんと休んだうえで、罰としてじゃなく一緒にデートとか旅行をしよう」
「た、確かに、本来それが正しい在り方ですね。いえ、その、分かってはいるのですが……」
「あはは、まったく真面目で仕事熱心すぎるのも考えものだなぁ……」
「あぅあぅ……め、面目ないです」
苦笑しつつ空いている手でアニマの頭を撫でると、アニマは申し訳なさそうな……それでいて凄く嬉しそうな、なんとも器用な表情を浮かべてはにかむ様に笑っていた。
シリアス先輩「なんか、アニマが快人に甘え始めてきたのが……この先の糖度が上がりそうでおそろしい」




