頑張り屋に休息を④
なんだかんだでアニマも疲れが溜まっていまみたいで、膝枕でかなりぐっすり眠っている感じがする。アニマが眠っている間は、起こさないように俺は本を読みながら静かに過ごしていた。
腿に重みはほとんど感じないが、それでも数時間となってくるとそれなりに大変ではある。まぁ、それでアニマがしっかり休めるなら全然問題は無いのだが……。
「……んんっ」
アニマが眠り始めてから3時間ほどが経過して、起きそうな気配がしたので本を閉じてマジックボックスの中にしまう。
少し身じろぎをしたアニマはゆっくりと目を開き、チラリとこちらを見てへにゃと緩い笑みを浮かべる。
「ご主人様ぁ……」
「おはよう、アニマ」
「ご主人様だぁ……えへへ……」
「うん? おっと……」
どうやらアニマは少し寝ぼけているみたいで、とろんとした目で寝ころんだまま手を伸ばして俺に抱き着いてくる。
形的には俺の腰に抱き着いてお腹に顔を押し付けているような感じであり、そのままグリグリと幸せそうな笑顔で顔を擦り付けてくる。
なんというか、子犬が甘えてきているような感じがして大変可愛らしい。俺としては非常にほっこりするのだが……あくまでアニマは寝ぼけているだけであり、少しすれば意識がハッキリしてくるのは必然である。
「ご主人様ぁ……ご主人様……ご主……」
甘えたような声が戻っていくのと同時に、冷静さを取り戻したのかアニマは俺を見上げて青ざめる。本当にサァッと効果音でも聞こえそうな勢いで血の気が引いていっており、どんな心境か非常に分かりやすい。
アニマとしては寝起き直後、俺に無礼な態度を取ってしまったと思っているのだろうが、俺としては別に一切不快感などはなく、むしろ大変可愛らしくて得したような気分である。
まぁ、真面目なアニマが気にしないわけも無いので、俺はできるだけ優しく微笑みながら気にしてないというのを態度で示しつつ声をかける。
「おはよう、アニマ」
「お、おはようございます、ご主人様……あ、その、自分、大変な失礼を……」
「気にしてないというか、むしろ可愛らしくて嬉しかったし、あんな風に甘えてくれてもいいよ?」
「あぅ、い、いえ、それは大変に無礼で……従者としての節度がですね……自分にはハードルが高いといいますか……と、ともかく失礼いたしました!?」
ワタワタとするアニマは大変可愛らしく、見ていると自然と笑顔になる。まぁ、真面目なアニマは簡単にはさっきみたいに甘えることはできないだろうが、いまの様子を見る限り若干揺れている感じがあったので、そのうちしっかり甘えてくれるようになるかもしれない。
その辺りは焦っても仕方ないし、じっくりアニマが恋人関係に慣れていくのを待つことにしよう。
「……あの、ご主人様、自分はどのぐらい眠っていたのでしょうか?」
「3時間ぐらいかな?」
「さ、3時間も!? も、申し訳ありません! もっと早く目覚めるつもりだったのですが……そ、そんなに長時間ご主人様を拘束していたとは……」
「気にしないで、それよりしっかり休めれた?」
「……は、はい。その、3時間とは思えぬほど熟睡出来ました。いまは心身ともに気力が漲っています!」
「そっか、それならよかった」
アニマの言葉に嘘は無いだろう。実際に好調という感じが伝わってくるし、俺に迷惑をかけたということに恐縮している以外は、本当に絶好調という雰囲気がある。
というか、なんならしっかり休んで万全の状態の時より調子が良さそうに見えるから不思議だ。
「お腹空いてない? なにか食べようか?」
「はい! でしたら、自分が用意を……」
「いや、むしろ今回はアニマを休ませるのが目的だから俺が用意して、アニマには待っててもらったほうが……」
「そ、それだけはご容赦を! ご主人様に料理をさせて、自分だけが待っているなど罪悪感で精神が押しつぶされてしまいます! ど、どうか、せめて……なにか手伝いを」
「ふふ、じゃ、一緒に作ろうか?」
「あ、はい!」
たしかに、アニマの性格上ひとり待たせるのは逆に休まらないかと思って提案すると、アニマは非常に嬉しそうな笑顔を浮かべて頷く。なんとなく、背後に尻尾を振る子犬の幻影が見えた気がした。
シリアス先輩「ぐあぁぁ、い、いちゃついてやがる……なにが厄介って、アニマ相手だと快人が余裕があるというか、リードする側に回ってるせいで結構ストレートにいちゃつくからキツイ」




