閑話・三人娘の慰安旅行④
雄大な富士山を一望できる露天風呂、旅館全て貸し切りという非常に贅沢な状態であり、それどころかこの世界自体リリアが招かない限り立ち入れないので、この絶景も含めてすべてが慰安旅行に来ている三人だけのものである。
「素晴らしい光景ですね」
「そうですね。というか、こんな絶景付き旅館を下賜していただけるなんて、リリはなんだかんだで恩恵もたくさん得てますよね」
「……そんな絶景好き旅館をポンと渡してくるような相手というだけで、胃の痛い思いではあるんですけどね」
ルナマリアの呟きにリリアが苦笑を浮かべる。確かにリリアは快人関連による恩恵も人一倍受けており、もちろんそれはありがたくは思っている。ただまぁ、それでももう少し加減してほしいと思うのも無理はない話だろう……主に胃痛的な意味で。
「大きさ自体はリリの屋敷のお風呂と変わりませんが、この雄大な自然と解放感は素晴らしいですね。エルフ族の私としては、自然を感じられるこの雰囲気はなんだか心休まります」
「こういった景色も含めて、カイトさんは温泉が好きなのかもしれませんね」
「ええ、その辺りの話もカイトさんに聞いてみたいですね。いつかこの旅館にも一緒に来れたりしたら素敵だなぁと……まぁ、所有者はリリなので、リリ次第ではありますが……」
「ふふ、私も丁度カイトさんと来られたらなぁと考えていたところなので……その機会にはぜひ一緒に行きましょう」
実際リリアが今日親友であるふたりを誘って温泉旅館に来たのは、もちろんここ最近の疲れを癒すためというのがメインの目的ではあった。ただ、それ以外にもいずれ快人と一緒に来る時のための下見も兼ねていたりする。
一緒に魔界に旅行した時は、なんだかんだで非常に楽しかったのでまた行きたいとは常々考えていたので、そう遠くない内に快人を誘ってここにまた来たいと……。
恋人である快人のことを楽し気に話すふたりを見て、微笑まし気な表情を浮かべていたルナマリアだったが、途中でふと悪戯っぽい笑みに変え揶揄うような口調で話す。
「……はぁ~やれやれ、私の親友ふたりは同じ殿方にゾッコンで、こんなところでまで惚気てくるので、私としては疎外感を覚えてしまいますねぇ」
「……でも、ルナも相当カイトさんのことは好きですよね?」
「うぇっ!? な、ジーク!? いきなりなにを……」
それはいつもの揶揄いではあったが、ジークリンデから思わぬ反撃が飛んできた。いや、もちろんジークリンデとしては反撃のつもりはなく、普通に世間話の一貫として返しただけだが……それを聞いたルナマリアは、落ち着きなく視線を動かす。
ジークリンデと同様に思い当たる部分があるのか、リリアもどこか同意するように頷く。
「確かに、ルナはなんだかんだでカイトさんに積極的に話しかけに行きますし、私たち以外に対してああいう揶揄い口調で話すのは珍しいので、私もルナがカイトさんのことを相当気に入ってるんだなぁとは思ってましたね」
「……うっ、うぐぅ……」
リリアまでどこか楽し気に話に加わってきたころで、ルナマリアは一気に窮地に立たされる。他の相手ならともかく、親友であるリリアやジークリンデが相手だと誤魔化すのは難しい。ムキになって反論したところで、逆に信憑性が増すだけである。
しばらく少し赤くなった顔で唸っていたルナマリアだったが、途中で諦めたのか軽くため息を吐く。
「……はぁ、というかですね。そもそも、ミヤマ様は私が頭を悩ませていた馬鹿な親友ふたりの関係を綺麗に修復してくれて、本人が意図していないとはいえ長年貧血に苦しんでいた母の体調も改善してくれ、日頃からウザ絡みしていく私にもちょこちょこ辛辣にしつつも優しいわけですよ……そりゃ、まぁ……好きにもなりますよ……言わないでくださいよ!!」
「ふふ、分かってますよ。流石にそんな無粋なことはしません」
「けど……いつか、カイトさんも含めて四人で旅行とかできたら、楽しそうですね」
顔を真っ赤にしつつも快人への好意を認めるルナマリアに対し、特に揶揄ったりすることは無くリリアもジークリンデも優しげな表情を浮かべていた。
そしてジークリンデが口にした。いつか快人も含めて四人で旅行出来たらという言葉を聞いて、ルナマリアも少しキョトンとしたあと、フッと笑みを零した。
「……そうですね……それは、まぁ……楽しそうですね」
シリアス先輩「ハーレム温泉旅行とか、そんな恐ろしいシリアス抹殺計画を建てるんじゃない……震えてくるじゃないか……」
???「まるでいまはシリアスが存在してるかのような口ぶり、現実見えてないんすか?」
シリアス先輩「夢見たっていいじゃないか……」
???「あっ、次回からアニマさんとの話になるみたいです」
シリアス先輩「現実を突きつけるのはやめろ……」




