新ブランドとそれぞれ反応⑨
神界にある神域では、世界の神たるシャローヴァナルと冥王クロムエイナが向かい合う様にして席に座って紅茶を飲んでいた。
よくふたりで行っているお茶会なのだが、今回は少しいつもとは違う部分がありクロムエイナが不思議そうに首を傾げて口を開く。
「……シロ、あの辺に生えてるのってなに?」
「紅茶の木ですね」
「……茶の木じゃなくて、紅茶の木?」
「はい。紅茶の茶葉がそのままできる木です。ちゃんと乾燥したものが生えます」
「う、う~ん。もうすでにツッコミどころは多いけど、それはまぁいいとして……なんで紅茶の木?」
神域に生えていた謎の植物について尋ねてみると、乾燥した紅茶の茶葉が生る木ということだった。その時点でおかしな植物ではあるのだが、シャローヴァナルであればそんな通常はあり得ない植物を創造することも可能ではあるし、突拍子もない行動をとるのもいつもの事ではある。
ただなぜそんな木を創造したのか……クロムエイナの予想では、確実に快人絡みである。というか、シャローヴァナルが予想外の行動をとる際には基本的に快人が要因であることが多い。そして今回は、快人が紅茶の新ブランドを立ち上げたと、条件が揃っているので関係を疑わない理由がない。
「アレは練習ですね。快人さんに紅茶の木をプレゼントしようと思って、いろいろ調整して作っています」
「あ~なるほど、グロリアスティーみたいな感じでってことか……カイトくんが、紅茶の新ブランド作ったから自分もそれに関わりたいってことだね。まぁ、それでもいきなりなにかしてたりせずに、ちゃんと練習してるのはいいね。風味とかいろいろ試してるの?」
「ええ、せっかくですしクロの意見も聞きたいですね。少し味見をしてくれませんか?」
「うん。いいよ~シロがどんな紅茶作ったのか、興味もあるしね」
シャローヴァナルが突拍子もない行動で周囲に大きな影響を与えるというのは、事実として過去に何度もあったが……今回に関しては、現時点ではまだなにも起こしておらず、さらにこの段階でクロムエイナの意見を求めてくるということは、クロムエイナがしっかり誘導すれば無難な感じに纏めることも可能だろう。
そんな風に考えて快く味見を了承したクロムエイナの前に、ほどなくして紅茶が出された。
「どうぞ」
「いや、青っ!? なんでよりにもよって青色なの!? しかも、薄っすら青いとかじゃなくて濃い過ぎるぐらいだし……見てて気持ち悪いんだけど!?」
シャローヴァナルが出してきた紅茶は、まるで青色の絵具をそのままカップに入れたかのような濃い青色だった。よく見ればちゃんと液体なのだが、色が濃すぎるせいで所見ではクリームかなにかに見えるレベルである。
「やはり、なんらかの個性は必要かと思いまして」
「なんでよりにもよって、その個性を色に求めちゃったかな……飲んでみたら、味は普通の紅茶なんだけど、見た目が酷すぎるよ。いい、シロ? 奇抜なものを作ればそれでいいってわけじゃないんだよ。ちゃんと色々なバランス考えないと、ただ奇をてらっただけの変なものになるだけだよ」
「…………」
「……えっと、シロ? なにその、微妙そうな目……心なしかいつもより表情変わってる気がするんだけど……」
クロムエイナが諭すように告げると、シャローヴァナルはなんとも言えない微妙そうな目でクロムエイナを見つめてきた。普段ほぼ表情が変わらないシャローヴァナルにしては珍しく、クロムエイナに対する非難のような雰囲気が出ている。
「……いえ、言ってる内容は正論で、その通りだとは思います。ところでクロ、これをどう思いますか?」
「……あっ、いや……それは……その……」
シャローヴァナルが差し出してきたのはベビーカステラであり、それは過去にクロムエイナが半ば嫌がらせとしてシャローヴァナルに渡したワザビ入りのベビーカステラだった。
そしてそれを出されると、シャローヴァナルの非難するような目の意味も理解でき、クロムエイナはなんともバツの悪そうな表情を浮かべた。
「そういえば知っていますか、クロ? なんでも、ベビーカステラの可能性の追求だといってバランスを考えない奇抜なものを作り出している存在が居るようなのですが?」
「……うぐっ」
そう、シャローヴァナルの非難の視線は「正論だがお前が言うな」というものであり、流石に心当たりが多すぎるのかクロムエイナはダラダラと冷や汗をかき始める。
「……う、うん! その、発想をなんでもチャレンジしてみようってのは凄くいいと思うよ。だけど、その、カイトくんにプレゼントするなら、もうちょっと王道な感じがいいんじゃないかなぁって……ぼ、ボクも協力するから、いろいろ考えてみよ!」
「そうですね。私はどこかの誰かのように奇抜さには走らず、正統派で行くことにしましょう」
「ふぐぅ……」
その日のお茶会は、これまでを考えると珍しいことではあるが、終始シャローヴァナルが圧倒的に優勢であった。
シリアス先輩「というか、いちおう奇抜なもの作ってる自覚はあったのか……」
???「たぶん、その時はテンションが上がって暴走気味になるだけで、クロさん味覚とかはまともなので、あとになってからやっちゃったと後悔してるパターンでしょうね」




