新ブランドとそれぞれ反応⑦
シンフォニア王国首都にある一件の店舗では、占い師であるエリーゼが午前の営業を終えて昼休みのために一度店を閉めていた。
高位魔族である彼女に食事は必須ではないのだが、エリーゼは嗜好として食事を好んでいるので人間族のように日に三食キッチリ自分で作って食べていた。
今日は何を作ろうかと、マジックボックス内の食材を思い浮かべながら考えていると、直後にやや後方の空間がノイズのようにブレてアリスが姿を現した。
「……最悪です。なんでよりにもよって食事前に現れますかね? どうせなんか面倒な用なんですよね。直接出向いてくるってことはそうでしょうし、最悪の最悪です。ご飯が不味くなるので、用件だけ言ってさっさと帰って欲しいです」
「貴女は本当にいっつも辛辣ですよねぇ……カイトさんにはもうちょっと優しくないですか? 昼食時に現れたら、ご飯とか作ってあげてますよね?」
「人間さんは別にこっちに害はない場合は殆どですから。シャルティア様の場合は、現れるイコール面倒な指令じゃないですか……対応が違って当然です」
「う~ん。まぁ、実際に指令持ってきたので反論が難しいですね」
心底嫌そうな表情で対応するエリーゼに対し、アリスは相変わらずだと言いたげに呆れたような笑みを浮かべる。ちなみに、実際にアリスと快人に対してではエリーゼの対応が違う。
具体的には、快人が訪れた際には口では悪態をついているがそれなりに歓迎しているが、アリスが来た場合は面倒な指令である可能性が高いので本気で嫌がっているという違いがある。
「……はぁ、それでなんですか?」
「ええ、いくつか調査してほしいことがあって、貴女の担当地区でかつ貴女に向いた内容なので……」
「分かったです。急ぎですか?」
「いえ、10日以内程であれば助かりますが、特に急ぐ必要は無いですよ」
ただ、エリーゼは十魔の中では比較的真面目であり、この手の指令を拒否することはほぼ無い。文句は多いのだが、任務自体を却下することは少ないので気分屋のリリムなどよりはよっぽど仕事を任せやすい相手だった。
そして、アリスに対して狂信的な感情も無いので、アリスからの直接指令だとウザいほどに張り切る狂信組とも違うため、なんだかんだでアリスにとっては仕事を任せやすい相手といえる。
「分かったです。やるです」
「では、よろしくお願いしますね……おや? 紅茶とは珍しいですね? 貴女は生粋のコーヒー党では?」
「知ってるくせに、いちいちとぼけたこと言わないでほしいです。貰いものはちゃんと使う主義なんですよ」
現在のエリーゼは食事と並行して紅茶を淹れる準備をしており、その理由は快人から貰ったオリジナルブレンドの茶葉で紅茶を淹れて飲むためだ。
「いいですね~私もご馳走になりましょうかね?」
「さっさと帰れです」
揶揄うような笑みで告げるアリスに対し、エリーゼは再び辛辣な言葉を投げつけていた。
偶然にも時を同じくして、シンフォニア王都にある診療所では、フィーアが昼休憩を利用して様子を見に来たフュンフと紅茶を楽しんでした。
「いい味の紅茶だね。カイトはなんだかんだで、こういうセンスいいよね」
「うんうん。私はハーブティーを飲むことが多かったけど、ミヤマくんからこれを貰って紅茶も好物になりそうだよ」
快人の紅茶ブランドについてなど他愛のない雑談をしつつ、和気藹々と会話を楽しんでいたふたりだったが、途中からフュンフの表情が少々曇ってくる。
というのも、フィーアの話の中に彼女にとってよくない傾向を察知したからだった。
「あ、えっと、フィーは楽しそうだよね」
「うん。あっ、楽しいで思い出したんだけど、前にミヤマくんがこの茶葉を持ってきてくれた時の話なんだけど……」
「あっ、ちょっ、フィー……そ、その話長くなるかな? ほ、ほら、午後の診療とかあるんじゃ?」
「ああ、大丈夫だよ、フュン。結界魔法でちょっと時間の流れを弄ったから、ゆっくり話せるよ」
「……そ、そっかぁ……」
明るい笑顔で告げるフィーアの言葉を聞き、フュンフはなんとも言えない表情で頬を引きつらせる。というのも、フィーアは正式に交際を始めた快人に対してデレデレというか、元々の性格も相まって愛情が非常に大きく、快人の話になるととても幸せそうに長々と話をする。
……そう、早い話が思いっきり惚気てくるのだ。
「その時に一緒にハーブクッキーを食べたんだけど、ミヤマくんが初めて食べるハーブを使ってたからかな、反応が可愛くて……」
「そ、そっかぁ……」
「……それで、ミヤマくんに貰ったクリアハーブが……それから、ミヤマくんが持ってきてくれたカップで……その時のミヤマくんの反応が……」
「……」
延々と続くフィーアの惚気話に、フュンフは遠い目をしながら聞いていた。長く暗い表情ばかりをしていたフィーアが、こうして幸せそうに笑えるようになったのは凄く嬉しい。だが、それはそれとして延々と惚気話を聞かされ続けるのは精神的に辛いものがある。
しかし、幸せそうに話すフィーアを見ては途中で止めるのも気が引けると……なんとも複雑な、どこか諦めに近い表情でフュンフは話を聞き続ける。
「せめて、1時間ぐらいで終わって欲しいなぁ」とそんな風に考えながら……。
シリアス先輩「お、おかしいな? アイシスもそうだけど、快人居ないのにちょっと惚気てる感じが、甘い空気出してない? 気のせいならいいんだけど……ちょっとこう、チクチクとしたダメージが……」




