新ブランドとそれぞれ反応⑥
アルクレシア帝国の王城にある執務室では、いつものようにクリスが書類仕事を行っていた。報告書などに目を通し、必要な部分には処理や承認をして次の書類を手に取りつつ思考を巡らせる。
(今夜の夜会は少々面倒になりそうですね。今日からミヤマ様の紅茶ブランドがスタートしますが、購入できた者とできなかった者で差が出てしまうので、軽い自慢程度ならともかく煽る様な物言いをする者には注意をする必要がありそうですね)
快人の紅茶ブランドは貴族たちから注目度が高い。元々以前のアルクレシア帝国の建国記念祭にて少数だけ販売された三つの山が描かれた陶磁器。その質の高さと快人自体の知名度も相まって、それを手に入れる機会を待っていた貴族は多い。
特に今回の新ブランドに関しては、紅茶好きで知られる大樹姫ジュティアもかなり注目しているとの噂もあり、質の高いもの……ひいては、人より優れたものを求めたがる貴族にとっては注目の品である。
(あとは世界メイド協会なども強く関心を持っているとか……メイド関連は規模は大きくとも色々特殊過ぎる上に、私は畑違いということもあって情報が手に入り辛いですが、メイド長も珍しくソワソワと浮足立っている様子だったので、注目度が高いのは事実でしょう)
メイド界は情報網なども含めてかなり特殊であり、メイドたちによる独自の情報ネットワークが構築されていることもあってメイド以外には情報が手に入り辛い。
だが、クリスも皇帝として強い情報網は持っているため、メイド界のトップに君臨するアインが快人の紅茶ブランドを絶賛してたという噂を入手しており、場内のメイドたちの様子からそれが事実であるとも確信していた。
「陛下、失礼します。紅茶をお持ちしましたので、一息つかれてはいかがでしょうか?」
「ああ、ありがとうございます。そうですね、そうさせてもらいましょうか……」
そんな風に考えているとメイド長であるアレキサンドラがカートを押して入室してきた。そして勧めに従ってクリスは一度仕事の手を止め休憩を挟むことに決めたのだが、その際にふと卓上にある時計を確認した。
(……いつもより30分ほど早い? 時間に正確な彼女にしては珍しいですね)
アレキサンドラはアルクレシア帝国内でもトップの実力を持つメイドであり、その能力たるや技のスーパーメイドとしてメイド界でも一目置かれているほどだ。
そしてその仕事ぶりは優雅にして繊細かつ正確であり、その仕事ぶりはクリスも非常に高く評価していた。ただ、いつもならばキッチリ決まった時間に訪れるはずの彼女が、珍しくやや早めの時間に紅茶を持ってきたのは少し不思議だったが……それも、目の前に置かれたカップを見て解決した。
「……おや? これは、ニフティのカップですか?」
「さすが陛下、お目が高い。ええ、幸運にも初回抽選に当選いたしまして、本日朝一番で購入してきた品です。伝統の製法を用いられた正統派の一品でありながら、その色合いや形状の美しさ、主張し過ぎないようにさり気なくも美しく施された装飾。数多の陶磁器を見てきた私の目から見ても、まさに至高の完成度です」
「そういえば、初回当選だけは以前にアルクレシア帝国で販売されたものと同じ陶磁器が販売されたのでしたね」
「ええ、お恥ずかしながらあの陶磁器を見て当日に気付いて購入に赴けなかった己の甘さを悔いたものですが、巡り巡ってこの機会に手に出来たのは望外の喜びです」
どうやらアレキサンドラは見事新ブランドの初回抽選に当選したらしく、更には量産を前提とした品ではなくネピュラとイルネスが直接手掛けた限定のカップを購入できたようで、あまり感情を強く表に出さない彼女としては珍しく上機嫌さが伝わってきていた。
「なるほど、しかしそんな貴重な品を使ってしまってよかったのですか?」
「使ってこそですよ。いかに美しかろうと、カップを展示するように飾ってしまってはその魅力は半減と言って差し支えないでしょう。自論ではありますが、陶磁器の真価は単品では完結しません。ティーカップならば、ティーカップとして利用されている状態こそ、最も美しいのです」
「確かに、それが正しい姿なのかもしれませんね」
「ええ、これ程の陶磁器を用いて紅茶を淹れる際には、久々に心躍りました。残念ながらこちらを入手するのを最優先にしたので、茶葉などは購入できなかったのですが……」
「ああ、それでは、私がミヤマ様に直接貰った茶葉があるので……午後はそれを使って淹れていただきましょうかね」
「それは素晴らしいですね。ええ、お任せください。きっと最高の一杯を淹れてみせます」
そう言って美しい所作で一礼するアレキサンドラを見て、クリスは苦笑を浮かべる。真偽のほどは定かではないが、皇帝だけが閲覧できる皇家の歴史が記された資料から察するに……世間に流れている噂は真実ではないかと、クリスも考えている。
ただまぁ、あまりにもメイドとしての姿が似合い過ぎているせいか、それでも半信半疑であることには変わらないし、いまさらそれを確かめようとも思わなかったが……。
シリアス先輩「そういえば、初代皇帝だったっけ……」




