閑話・王と救済者②
シャルティアと名乗った金髪の女性……小柄なイルネスとさほど変わらない体躯であり、優し気な笑顔を浮かべ体はいたが、対峙しているイルネスの心中は穏やかではなかった。
(信じられませんねぇ……なんて~圧倒的な存在でしょうかぁ……遥か格上だとは思っていましたがぁ、それでも~想定が甘かったですねぇ。ただ立っているだけなのに~圧倒されますぅ。あまりにも強大な魔力に~寒気がするほどに美しい魔力流動……もしかして~この方が噂に聞く魔界最強……いえ~名前が違いますねぇ。偽名という可能性もありますがぁ)
シャルティアと名乗った女性が、あまりにも隔絶した力を持っているのは目の力を用いずにも理解できた。イルネスは魔界でも屈指の強者であり、だからこそ対峙するだけである程度相手の力量も分かる……筈だった。
しかし、シャルティアの力量に関しては分からなかった。己より遥かに格上というのは理解できても、どれほどの力なのか読み取れない。
それは、イルネスとシャルティアの間にあまりにも隔絶した力の差があることの証明でもあった。故にイルネスは、逃走は不可能と判断した。この場において生殺与奪の権利を持つのはシャルティアであり、己はその判断に抗う術は無いと……。
「さて、出来れば貴女の名前も知りたいのですが?」
「……イルネスと申しますぅ」
「イルネスさんですね、どうぞよろしく……さて、突然人形をけしかけるような真似をしてもうしわけありませんでした。貴女の噂は聞いていましてね、ちょっと実力のほどを確かめたかったんですよ。いやはや、鮮やかで見事な戦いでした」
「それは~何のためにでしょうかぁ?」
どうやらシャルティアはイルネスの力を試していたというのは理解できた。最初のわざと探らせるような気配も含め、なんとなくそんな予感はしていたのでイルネスに驚きはない。
ただ、試し先の目的がなにかまではわからず、やや警戒したような表情を浮かべる。そんなイルネスを見て苦笑を浮かべたあとで、シャルティアは本題に入る。
「さて、それじゃあ本題を言いましょうかね。イルネスさん、私の『配下』になる気はありませんか?」
「……配下……ですかぁ?」
「ええ、実はですね。いま私はこの魔界に秩序を作ろうとアレコレしている最中なんですが、まだまだ人手が足りてない状態なんですよ。これから先を考えるともっとたくさんの配下が必要になってくるわけですが、先にやることが多くて配下集めは後回しになっちゃってたんですよね~。いまもまだ実質ひとりしか配下はいないので、優秀な相手をスカウトしてるところです。というわけで、どうです? いまなら、幹部待遇を約束しますよ?」
「……貴女はぁ……何者ですかぁ?」
それは思わず口を突いて出た疑問だった。目の前のシャルティアは、イルネスがいままで遭遇した中で最強と呼んで間違いない存在であり、更には魔界に秩序を作り出すというスケールの非常に大きな話をしている。
だが、イルネスはシャルティアという名に心当たりが無い。イルネスも長く魔界を旅してきており、魔界でも隔絶した力を持つ者たちに関しても噂程度であれば聞いたことがある。
魔界最強と呼ばれるクロムエイナを筆頭に、赤き暴虐メギド、絶死領域アイシス・レムナント、守護の聖域リリウッド・ユグドラシル、咆哮する山脈マグナウェル、暴嵐のオズマ……クロムエイナとその陣営は、魔界でも隔絶した強者たちとして有名だった。
他にもクロムエイナの元には、己を従者と自称する桁違いの猛者も居るという話を聞いたこともある。正直このうちの誰かであるならば、イルネスはここまでは混乱しなかっただろう。
だが、目の前にいるシャルティアは噂に聞くそれらの存在の特徴とは合致しない未知の存在であり、これ程圧倒的な力を持ちながら己が噂すら聞いたことがない相手であるというのが不思議だった。
「先ほどはシャルティアと名乗りましたが、いちおう対外的には幻王ノーフェイスって名前で名乗ってますね」
「幻王……ッ!? 最近~よく耳にするようになった六王という方のひとりでしたかぁ……なるほどぉ、王と名乗るだけはある凄まじい力ですねぇ。他の王たちの名前から察するに~貴女もぉ、クロムエイナ様の関係者でしょうかぁ?」
「ええ、そう思ってもらって構いませんよ。いいですね……まだ魔界には話は広がり切ってないはずですが……耳が早いのは高評価です。噂を聞いて勧誘に赴いたかいもありますね」
最近魔界に爵位級という階級と共に広がり始めた話……禁忌の地に住む魔族たちが、魔界を統べる王としての名乗りを上げたという話は、イルネスも耳にしていた。
最初は眉唾な話だと思っていた。特にクロムエイナは魔界最強と魔界中に認められながらも覇を唱えることなど無かった上、他の者たちも噂こそあれどほぼ禁忌の地以外に出てくることは無かった。
だが、ここ100年ほどで魔界で悪名を轟かせていた強大な力を持つ高位魔族たちがほぼ壊滅といっていい状況になっており、最近では徐々にその六体の魔族が魔界の頂点に立つという話も信憑性を帯びてきていた。
「……なるほど~わざわざ勧誘に出向いてくださったのはぁ、光栄なお話ですがぁ……私に~なにをさせたいのですかぁ?」
「まぁ、その辺りは気になるところですよね。では、ここからは仕事と待遇の話をしましょうか……」
シャルティアという存在に関しての疑問はある程度残るものの、とりあえずシャルティアが己の元を尋ねてきた理由は理解したイルネスは、詳しい話を聞いてみることにした。
もともと逃げるのは不可能な以上、聞かないという選択肢は無かったのだが……ともあれ、イルネスの返答を聞いたシャルティアは上機嫌で仕事に就いての話を始めた。
シリアス先輩「あれ? この時点だとまだ配下は少なかったのか?」
???「情報網自体は結構構築してたんですけど、主に分体を使ってましたね。いや、ほら、まずは幹部とか上の方をそろえたかったですし……結果的に、パンデモニウムに声をかけたのは大正解でしたね」
シリアス先輩「大半失敗してるからな」
???「……ホント……変態率高すぎるんですよ。能力だけじゃなくて、もうちょっと人格面も考慮すべきでした……」




