イルネスとのお茶会⑩
膝枕の形で快人を寝かせて、耳掃除をしているイルネス。快人の感覚としては、イルネスはいつも通り落ち着いており、自分ばかりが緊張していると感じていた。
その要因のひとつに感応魔法がある。感応魔法が使える快人は、イルネスの感情を読み取ることができるためなにかしらそういった感情があれば察することができると……。
それに関しては間違いない。現にイルネスは魔力を押さえて感応魔法を遮断するようなこともしていなければ、感情が大きく動いたりはしていない。
だが、落ち着いていることが……すなわち冷静であるか否かは別だった。現在イルネスの中で一番大きな感情は幸福であり、快人が感じているイルネスの感情も「喜び」などといった感情が強い。だが、時として大きな感情は、小さな感情を覆い隠す。
(なんというかぁ、不思議な気持ちですねぇ。こうして~カイト様に膝枕をしてぇ、耳掃除をしていてぇ、とても幸せなはずなのにぃ……変に~気持ちがソワソワとしてしまうのはぁ、困りものですねぇ)
そう、あくまで幸せという気持ちが大きいだけでイルネスは少々動揺していたし、緊張もしていた。いや、聡明な彼女は己の状態をよく理解している。そして理解しているからこそ、戸惑いを感じていた。
(これも~変化ですかねぇ。こうして~カイト様が近くにいるとぉ、胸が高鳴るように感じるのはぁ……以前とはまた違う気持ちかもしれませんねぇ。カイト様を~愛おしく思う気持ちが大きくなるにつれてぇ、自分自身では抑えきれない気持ちもぉ、顔を出すようになってきてしまいましたねぇ)
優しく丁寧に快人の耳かきを行いながら、イルネスはたしかに胸が高鳴るのを感じていた。そもそも膝枕で耳掃除をしたいと感じる切っ掛けになった雑誌も、そういった恋愛関連の内容が載っているものであり、いままでイルネスが見ることは無かったタイプの雑誌だった。
着実に己の心が変化しているのを感じつつも、イルネスはその変化もどこか楽しんでいる様子だった。
(長く生きてきたつもりでしたがぁ、まだまだ~知らないことがいっぱいあるものですねぇ。シャルティア様に~空っぽだと言われたころの私がぁ、いまの私を見たら~どんな風に感じるのでしょうねぇ?)
そんなことを考えているうちに片耳の掃除が終わって快人が頭の向きを変える。先ほどまでとは違ってイルネスの側を向いたことにより、快人の表情がよく見えるようになった。心地よさそうな快人の表情を見ていると、それだけで心の奥底から幸福な気持ちが際限なく湧き上がってくる。
少なくとも今の己は空っぽなどではないと胸を張って言えるほどには、イルネスの心の中には様々な感情が渦巻いていた。
だが、不思議なもので……いままでよりも多くのものを知り、いままで以上に視野が広がったことで、帰っていままでよりも分からなくなるというものも存在する。
イルネスにとっては、いまの自分の気持ちがそうだった。
(困りましたねぇ。自分の気持ちが~よく分かりませんねぇ。私は~この胸の高鳴りを~カイト様に気付かれたくないのかぁ、それとも気付かれたいのかぁ、どっちなんでしょうねぇ? 難しいですねぇ。どちらが~正解というわけでもなく~どちらの気持ちもぉ、心の中に同居しているかのような~そんな気分ですぅ)
気付かれたくないが気拭いてほしい。矛盾しているかのようで、それでいてどこか納得できる不思議な気持ちを感じつつ、イルネスは心の底から幸せそうな笑みをこぼした。
(ですがぁ、この気持ちの答えに関してはぁ……カイト様の傍に居ればぁ、そう遠くない内に~答えが出そうな気がしますねぇ。いえ~もしかしたらぁ、もう答えも全部分かった上でぇ、気付かない振りをして~目を逸らしているのかもしれませんねぇ。そう考えると~意外と私はぁ、臆病なのかもしれませんねぇ……くひひ、長く生きてきて~未だに新しい己に気付けるのはぁ、幸せなことなのかもしれませんねぇ……)
変化していく気持ちに戸惑いつつも、イルネスの心は穏やかなままであり、己に起こりつつある変化も好意的に受け止めていた。
なぜならその変化もまた彼女にとっては……最愛の快人から貰った大切なものなのだから……。
シリアス先輩「……」
???「先輩? ……ふむ、返事がない。ただのグラニュー糖のようだ」
シリアス先輩「……そこは……砂糖でよくね?」




