イルネスとのお茶会⑨
さて、どうしてこんなことになったのだろうか? 俺はイルネスさんに誘われてお茶会に来たわけだ。そこはまったく問題ないし、紅茶は美味しかったし雑談は楽しかった。
しかして、イルネスさんにその後に耳掃除をしてもらう展開になったのは、本当にどうしてこういう話の流れになったのやら……。
「えっと、それでは失礼しますね?」
「はいぃ。どうぞ~遠慮なくぅ」
とりあえずいつまでもイルネスさんを待たせるわけにもいかないので、やや遠慮気味にイルネスさんの腿の上に頭を乗せる。いや、もちろんイルネスさんが俺より遥かに強く、俺が寝転がる程度まったく問題ないことは分かっているのだが、それでも体格が小柄なこともあってか……それとも単に俺が、イルネスさんに膝枕をしてもらうシチュエーションに緊張しているのか、ややぎこちなく寝転がる。
最初に感じたのは肌触りのいいロングスカートの上質な生地の感触、そのあとで柔らかな腿の感触と微かな温もりだった。
イルネスさんとは逆の方向を向いているが、なんだろうか、変に緊張する。
「それではぁ、始めますねぇ」
「あ、はい。お願いします」
膝枕の状態で耳掃除自体は、以前にもクロとかにやってもらったことはあるが、それとはまた少し違う感じかもしれない。
イルネスさん自体の包容力というか、しっかりした年上の女性という雰囲気が強いせいか、変にドギマギしてしまう感じだ。
少ししてイルネスさんが耳掃除を始めるが、流石というべきが見事なものでとても心地良い。なにか言ったりしなくても、こちらがかいて欲しい場所、掃除してほしい場所を絶妙なタイミングで掃除してくれ、まさに至福と言えるような一時だ。
「……突然こんなことを言ってぇ、すみませんでしたぁ」
「あ、いえ、全然。俺の方は、ありがたいというか……心地いいです。ただ、少し意外ではありましたね」
「そうですねぇ。カイト様が~私のワガママをいつも許してくださるのでぇ、少し大胆になってしまっているかもしれませんねぇ。いままでは~控えていたのですがぁ」
「えっと、それって、いままでもこうして耳掃除をしたかったとか? そういうことですか?」
例によってまったくもってワガママとかではないのだが、今回の耳掃除に関してはたしかにイルネスさんが珍しく積極的な感じで、いつもとは違った印象を受けた。
ただイルネスさんの口ぶりからして、今回が変というわけではなくいままでもしたかったが我慢していたという感じだった。
「はいぃ。欲張りではありますがぁ、私は~もっとカイト様に~いろいろなことをしてあげたいと思ってしまいますねぇ。いまも~たくさん身の回りのお世話をさせていただいていますがぁ、欲望というのは際限がないものと言うべきでしょうかぁ、つい~もっとぉ、もっとぉ……と~考えてしまいますねぇ。本当に~自分がこんなにも欲張りだとはぁ、知りませんでしたぁ」
苦笑するような声で告げるイルネスさんだが、相変わらずまったく欲深くはない。なにせ、つまるところ今よりもっと俺のお世話をしたいという、献身的なイルネスさんらしいとも思えるようなものであり、欲深いどころか相変わらず欲が無い人だと感じるレベルだった。
「……なんという、全然欲深くなんて無いですよ。むしろ欲が無さ過ぎてビックリするぐらいです。本当にもっといろいろワガママを言ってくれたりしてもいいんですけどね?」
「くひひ、カイト様ぁ、あまり甘やかさないでくださいぃ。いまでさえ~自分の変化に戸惑って困っている状態なのにぃ、これ以上アレもコレもしたくなってしまっては大変ですぅ。ですがぁ……」
そこで一度言葉を区切ったあと、イルネスさんは耳掃除を中断して軽く俺の頭を撫でながら、すごく優しい声で告げた。
「……カイト様のおかげでぇ、私は~欲張りな自分のこともぉ、好きになれそうですよぉ」
その言葉にはいろいろな思いと共に、こちらに対する深い愛情が籠っているかのようで……なんだろう? 変にくすぐったい気持ちだった。
シリアス先輩「この距離感で恋人じゃないってどういうことだよコイツら!?」




