イルネスとのお茶会⑦
イルネスさんが旅を始めた動機は分かったし、本人はなんだかんだ言っていたがやはりその根底にあるのは優しさのように感じられて、昔のイルネスさんも俺のよく知るイルネスさんに違いは無いのだと思えるのが、なんだか少し嬉しかった。
「旅をしていた時から~今のようにメイドとして誰かに仕えるようになったのはぁ、単純にそれが楽だったからかもしれませんねぇ。いろいろな頼みごとをされることもありましたがぁ、己の意思というのが希薄だった私にとってはぁ、進む道を提示してもらえるのはぁ、きっと楽だったのでしょうねぇ」
「なるほど……ちなみに、シンフォニア王城にはいつごろから居たんですか?」
「期間で言えばぁ、それほど長くはありませんねぇ。5代前のシンフォニア王妃に勧誘されましたのでぇ、おおよそ400年ほど前ですねぇ」
俺の感覚では400年というのは滅茶苦茶長いのだが、間違いなく数万年を生きているであろうイルネスさんにとってはそれほど長い期間ではない様子だった。
まぁ、確かに単純に計算しやすいようにイルネスさんが4万年生きてきたと仮定すれば、400年は100分の1であり、極端に短くは無いがそこまで長くも無いという感覚なのかもしれない。
「王城でメイドをする前って、魔界に居たんですか?」
「いえ~私はぁ、友好条約が結ばれてすぐぐらいの時期にぃ、人界に移り住みましたのでぇ……王城でメイドをする前にはぁ、あちこちでいろんな仕事に就いていましたねぇ。商会の会計をすることもあればぁ、生態調査の仕事をしていたこともありましたぁ」
「だから、イルネスさんはいろんな事が出来るんですね」
「くひひ、確かに~なんだかんだで身につけたものが~意外なところで役に立つというのはぁ、ままあることですねぇ。しかし~こうして振り返ってみるとぉ、生きてきた年月の割にはぁ、話すことがさほどありませんねぇ」
たしかに時折懐かしんでいるような様子こそあれど、基本的にイルネスさんの過去の話は記録を読み上げるように淡々とした感じというか、「こうしていた」「こういう理由だった」という説明はあれど、エピソードのようなものを話すことがほぼ無い感じだった。
イルネスさん自身もそれが分かった上で、特にこの場で話すようなエピソードも思い浮かばないという感じがする。
「劇的な変化というものはぁ、思わぬところで訪れるものですぅ。私にとっては~過去の数万年よりもぉ、ここ数年の方が~遥かに劇的でぇ、いろいろなことがあったように感じられますねぇ」
「その気持ちは分かりますね。俺も……いや、イルネスさんと比べたら俺の人生なんで短いですけど、それでもこの世界に来てからの方がそれまでよりも圧倒的に濃い日々のような……いや、実際に濃いんですけどね」
「くひひ、そうですねぇ。劇的な日々というのであればぁ、カイト様には~とても敵いませんねぇ」
「あはは……」
楽しそうに笑うイルネスさんを見ていると、少なくとも劇的だと言っていたこの数年はイルネスさんにとっていいものであり、イルネスさんはしっかりといまを楽しんでいるという感じが伝わってくるので、なんだかこちらまで嬉しくなる気分だった。
いや、なんでか分からないが、なんとなく俺が褒められているような? そんな感覚になるのは、イルネスさんの声が凄く優しいからだろうか?
「最近ではぁ、私もすっかりとワガママになってしまいましたぁ。かつて空っぽと称されたのはなんだったのかと思うほどぉ、アレやコレやとやりたいことが頭に浮かんできてしまいますねぇ。困ったものではありますがぁ、それも楽しいと思ってしまっている自分が居るのでぇ、不思議ですぅ」
「いや、むしろイルネスさんはいままで欲が無さ過ぎただけで、いまも全然ワガママになったとかそんな気はしないですよ……あ~ちなみに、イルネスさんにとって、今回お茶会に誘ったのもワガママのように感じてたりしますか?」
「はいぃ。私の希望でぇ、カイト様を付き合わせてしまったのでぇ……」
「う~ん。それは違いますよ。俺は決してイルネスさんのワガママに付き合ってるわけじゃなくて、イルネスさんが提案してくれたお茶会が俺にとっても望むものだったから、自分で望んで参加したわけです。なのでまったくこれっぽちもワガママじゃないですよ。むしろ俺としてはもっとイルネスさんに要望を出してもらいたいぐらいですね」
「……」
イルネスさんは己の望みに俺を突き合わせることを遠慮しているような節があるが、無理やり付き合わされたりしてるわけでもなく俺が望んで参加しているので、まったくこれはワガママなんかではない。
俺の言葉を聞いたイルネスさんは、珍しく少しの間キョトンとしたあとで……小さく微笑む。
「……本当に困りましたねぇ。カイト様といると~私はぁ、どんどんワガママになってしまいますぅ。ですが~そんなワガママな自分も好きになれそうでぇ、なんだか少しくすぐったい気分ですねぇ」
シリアス先輩「も、もういいだろ? 十分だろ……ここで終わって、次話から新エピソードでいいよな? な?」
???「おや? シリアス先輩がそう言うってことは……」




