イルネスとのお茶会⑥
イルネスさんの昔話は続いていく。その中で少し気になったのは、イルネスさんは特に昔を懐かしむような感じがせず、非常に淡々とした語り口だった。
ただまったくなんの感情も籠っていないという感じではなく、なにかしら割り切っているという雰囲気だ。
「己の力が十全に使えるようになった後でぇ、次に私が観察したのは~客観的な己の力の強さとぉ、その扱い方でしたねぇ。多くの魔族を観察してみたところ~私の力はぁ、魔族の中でもかなり強い様でしたぁ。なので~魔界でもぉ、強者と呼ばれる者たちの~力の使い方を参考にしましたぁ」
「力の使い方ですか?」
「はいぃ。当時の魔界において~強大な力を持つ者の力の使い方はぁ、大きく分けて二通りでしたぁ。その力でなにかを守り~誰かを救う者とぉ、その力でなにかを壊し~奪う者の二通りでしたぁ。もちろん~細かく分ければぁ、もっとたくさんの形があってぇ、様々な思いや動機があるのでしょうがぁ。大別すれば~概ねそのどちらかであったと言えますぅ」
たしかに、大きな力の使い道と言えばそうかもしれない。その力を攻めに使う者と守りに使う者って感じだろうか? 実際に当時の魔界はあちこちで毎日のように戦いばかりが起こっていたという話だし、いま以上に戦闘能力こそ絶対みたいな世界だったらしい。
アリスが魔界にルールを作り上げるまでは、あの戦闘狂のメギドさんでさえ「つまらない」と表現する世界だったと聞くので、相当殺伐とした感じだったのだろう。
「特に~深い理由があったわけではないんですぅ。優しさや慈悲の心というわけでもありませんでしたぁ。ついでに~最初に言った通りにぃ、劇的ななにかがあったわけでもなく~そう思った切っ掛けがあるわけでもありませんでしたぁ。ただ~二通りの力の振るい方を観察してぇ、客観的に考えて救い守る方が正しい力の使い方ののだろうとぉ、そんな風に思いましたぁ。私が~魔界を旅しながらぁ、目につく人を救っていた理由はぁ、本当にそれだけですぅ」
「……立派なことだと思いますけど……」
「くひひ、そうですねぇ。感謝されることも多かったのでぇ、正しいことをしていたと言えば~間違いなくそうなのでしょうねぇ。ただぁ、私自身が~そのことに心動かされることはありませんでしたぁ。昔~とある方がぁ、私を『空っぽ』だと称しましたぁ。その際には~理解できていませんでしたがぁ、なるほどどうして~今になってみればぁ、納得できる部分が多いですねぇ」
ここで初めて、イルネスさんはどこか懐かしむような表情を浮かべたあとで、チラリと俺の方を見て微笑みを浮かべた。
そして少し間を置いてから、話を再開する。
「……私には~こうしたいという思いやぁ、こうなりたいという願いがありませんでしたぁ。だからこそ~自分をチェスの駒の様に見てぇ、客観的に正しいだろうと思うような行動をしていただけでしたぁ。俯瞰して己を見ていると言えばぁ、聞こえはいいかもしれませんがぁ……結局のところ~周囲だけでなく~自分自身にさえもぉ、無関心だったんでしょうねぇ」
「難しいところですね。当時のイルネスさんの考えは俺には分かりませんし、当人であるイルネスさんがそういうのであれば、それが一番正しいとは思いますが……それでも、二通りの力の使い方から、誰かを救い守るという使い方を選んだのは……イルネスさんの中に優しい気持ちがあったからだと思いますね」
「くひひ、そうかも~しれませんねぇ。確かに~今になって思えばぁ、私が気付かなかっただけでぇ、いろいろな感情が宿っていたのかもしれませんねぇ」
俺の言葉を否定するわけではなく、むしろその通りだと同意するイルネスさんは少なくとも空っぽだとは感じられない。
イルネスさん自身どこか懐かしむような物言いをしていることと合わせて、そういう風に空っぽだったのはあくまで昔の話という頃だろう。
「私を空っぽだと表現した方はぁ、こんなことも言っていましたぁ。『正しそうに感じられることと、正しいことは違います。貴女の本質である献身を悩むことなく注げるような相手が見つかれば、貴女にも変化が訪れるかもしれませんね』と~流石というべきでしょうかぁ、まさにその通りでしたねぇ」
「いい言葉ですね」
「はいぃ。実際にその方の言う通りでしてぇ、心から尽くし支えたいと思う相手に巡り合ってぇ、それを実行している内にぃ、意図せずに私自身にも変化が訪れていたようですぅ。戸惑いはありますがぁ、それでも~この変化はぁ、嫌いではありませんねぇ」
そう言って優しく微笑むイルネスさんの目……焦点を合わせてこちらを見る目にはどこか温かい感情が籠っており、自惚れかもしれないが……なんとなく、その相手とは俺のことだと言ってくれているように感じられた。
シリアス先輩「え? 待って、ヤバくない!? イルネスはじっくり時間をかけて進行するんじゃないのか!! なんかもう恋愛に発展しそうな感じなんだけど!?」
???「いや~アリスちゃんの名言は沁みますねぇ。流石超絶美少女は格が違いますよ……あっ、ちなみに空っぽだとパンデモニウムが言われた際のやり取りの詳細は、書籍版の書きおろして描かれていたりします」
シリアス先輩「いや、こっちの話題にも興味持って!?」




