オリジナルブレンド⑤
快人の家……もとい屋敷の給湯室には、イルネスの姿がありいくつかの紅茶の茶葉を並べて思考を巡らせている様子だった。
そんなイルネスの元に偶然通りかかったネピュラが近づいて声をかける。
「イルネスさん、なにをしてるんですか?」
「せっかくなので~カイト様にお出しする紅茶もぉ、オリジナルブレンドのものを用意してみようかと思いましてぇ、いろいろと考えていたところですねぇ」
「なるほど、丁度主様のオリジナルブレンドを制作したばかりなので、いいタイミングかもしれませんね。主様の好みで言えば……」
イルネスの言葉に納得したように頷いたあとで、ネピュラは並んだ紅茶の茶葉が入った缶に手を伸ばしかけたが、途中で止めて手を引いた。
「……いえ、無粋ですね」
「なにがですかぁ?」
「最適がすなわち最善とは限りません。ここで妾が答えを告げるないしアドバイスをしては、イルネスさんから、主様のことを想って試行錯誤する時間を奪ってしまうことに繋がりかねません。それは、少々無粋というものでしょう」
「なるほどぉ、確かに~こうして考えている時間もぉ、幸せなひと時ですしぃ、すぐに答えに辿り着いてしまうのはもったいないですねぇ」
「はい。それに、イルネスさんなら妾が余計なことを言わずとも、きっと良い答えに辿り着くでしょう」
ネピュラであれば、快人の好みに最も合致した最高のブレンドに辿り着ける答えを示すこともできる。だが、なにもかも教えることが最善ではないと理解しているネピュラは、あえてなにもアドバイスしないことに決めた。
好きな相手を想い、考え工夫する。そんな時間を奪わないようにと、軽く微笑みを浮かべたあとで給湯室から去っていこうとして……不意に扉付近で停止した。
「……ああ、ですが、ひとつだけおせっかいでアドバイスをさせてください。主様にお出しするならどんなブレンドがいいかを探すのではなく、イルネスさんが『主様と一緒に飲むならどんなブレンドがいいか』を探す方がよいですよ」
「私がぁ、カイト様と一緒に紅茶を飲む際の~ブレンドですかぁ?」
「はい。味というのは、飲食する物品によってすべてが決まるわけではありません。飲食するものの精神状態や、周囲の環境、そして誰と一緒か……そういったもので変化して然るべきです。主様にとって美味しく感じる紅茶のブレンドは、ある程度知識がある者であれば作ることはできるでしょう。ですが、イルネスさんと主様が一緒に飲む際に最もいいブレンドは、きっとイルネスさんにしか作れませんよ」
「……はいぃ。アドバイス~ありがとうございますぅ。やっぱり~ネピュラは頼りになりますねぇ」
「妾は絶対者ですからね!」
「くひひ、流石ですねぇ」
お礼を言うイルネスに胸を張って宣言したあとで、ネピュラは軽く手を振って去っていった。それを見送った後で、イルネスは再び紅茶の茶葉に向かい合う。
快人に出すためのブレンドではなく、快人と一緒に飲むためのブレンドをと考えると、いままでとは違ったブレンドがいくつも頭に思い浮かんできた。
「……カイト様と一緒にぃ……そうですねぇ。カイト様と一緒に紅茶を飲んで~雑談が出来ればぁ、それはどうしようもなく幸せですねぇ。カイト様ですと~私の好みも気にしてくださるでしょうからぁ、単純にカイト様好みの味にするだけではなく~私の好みも少し取り入れた方がいいですねぇ」
イルネスの頭に思い浮かぶのは、用意したオリジナルブレンドの紅茶をもって快人と一緒にお茶を楽しんでいる光景。想像するだけで胸の奥が温かくなるような、そんな思いを抱きつつ……イルネスは、紅茶のブレンドを進めていった。
シリアス先輩「さすが絶対者、砂糖に向けてのアドバイスも完璧か……く、くそぉ……これ絶対この後……」
 




