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新ブランドの立ち上げ⑤



 紅茶ブランドの立ち上げの宣伝を兼ねて、アインさんとジュティアさんに試供品を持っていくわけだが、最初にアインさんの元を訪れた。

 事前にハミングバードで内容は伏せていまから会いに行っても問題は無いかと伺いを立てたのだが、引くぐらいの速度で「問題ない」という返答が来たので、アインさんのことだから内容に関しては既に察しているのかもしれない。


「ようこそ、カイト様。お待ちしておりました」

「こ、こんにちは……」


 クロの城に着くや否や、目の前に満面の笑みを浮かべたアインさんが現れたことから考えても、これ完全に用件が分かってる。普段クールなアインさんがニッコニコ状態だし……たぶんというか、間違いなく前回の突撃でクロに連行されたあとは、厳しく言い聞かされたのか俺の家に来ることはなかった。

 だが、茶葉に関してあの短時間で情報を仕入れるぐらいなので、角砂糖とかのことも知っているだろうし、本当に楽しみに待っていたのだろう。


「さぁ、カイト様。立ち話はほどほどに……私の部屋にご案内しますね」

「はい。なんというか、楽しそうですね」

「お恥ずかしながら、気が急いている自覚はあります。いえ、まだカイト様の用件が私の期待しているものであるという確信があるわけではありませんが、それでも可能性は高いと思っているので……」

「ああ、それに関しては大丈夫です。たぶんアインさんが欲しいであろうものはちゃんと持って来てます」

「そうですか! それは、心が躍りますね!」


 いつもより無邪気な様子のアインさんを見て思わず苦笑しつつ、案内に従ってアインさんの部屋に移動する。例によって物の少ない簡素な部屋ではあるが、以前来た時より家具が少し変わっている気がした。


「あれ? このテーブルや椅子って、前見たのとは違いますね」

「ええ、基本的に私室はあまり使っていなかったので最低限の物だけを用意していましたが、カイト様がいらっしゃることもあるならといくつか家具は新調しました」

「なるほど……あっ、もったいぶってもアレですね。これが新作の茶葉と角砂糖です。あとこれは、ネピュラが書いた茶葉に関するメモです」

「こっ、これが……ふむ……なるほど、抽出の時間や量による味の変化を極力抑えることによって、技術の足りないものでも美味しく淹れられるように……ただそれだけではなく、以前の茶葉を組み合わせることで味をかなり多才に変化させることが……なるほど! 新作の茶葉は味の安定性が高いからこそ、大胆に手を加えても味を壊すことが無く調和させることができるのですね。素晴らしい! ネピュラ様の発想には、毎度頭が下がる思いです。味の拡張性が極めて広く、淹れる者の腕次第でいかようにも変化させることができると……」


 俺から茶葉とメモを受け取るが早いか、食い入る様な様子でメモを見始めブツブツと呟きだしたアインさんだが、少ししてキラキラと輝くような表情を浮かべる。


「カイト様、どうぞおかけになってお待ちください。さっそくこの茶葉で紅茶を淹れてきます」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 なんとも楽しそうであり、見ていると微笑ましくなる。アインさんは言うまでもなくメイド関連に拘りを持つ人だし、本人曰くメイドと関わりの深い紅茶……それに新しい可能性を見つけられるのは、本当に嬉しいことなのだろう。

 ほどなくして、アインさんが持ってきた紅茶の味は、これはまた絶品であり……自分で淹れて飲んでみた紅茶とは思えないほど味が違う気がした。


「この砂糖も素晴らしいですね。これだけ質のいい砂糖は初めて見ました」

「気に入ってもらえたのならよかったです。それで、新しい紅茶ブランド……ニフティって名前にしたんですが、その宣伝に協力してもらえたら助かります」

「ええ、任せてください。この茶葉と砂糖は全メイドが知っておくべきものです。しかと伝達しますので……その……強欲な話だとは思うのですが……以前のものと同じように、定期的に売っていただけたらと……」

「ああ、それなんですけど……アインさんは絶対欲しがると思ったので、ネピュラとかアニマとかに許可を取ってこれを持ってきたんです」


 そう言いながら俺がマジックボックスから取り出したものを見て、アインさんは目を大きく見開いた。


「こ、これはまさか……」

「ええ、原料である茶の木とサトウキビですね。今回の茶葉は前のと違って簡単に栽培できるみたいなので、これが有ればラズさんとかに頼めばいくらでも確保できるかと思って……ああ、さっき言った通りネピュラとかアニマには許可を取ってます。売ったりしないようにしてもらえれば、個人で使う分にはまったく問題ないので……」

「カイト様……申し訳ありませんが、少し立ちあがっていただけますか?」

「え? あ、はい」


 茶の木とサトウキビをプレゼントするという俺の言葉を聞いて、アインさんは感極まったような表情を浮かべたあと、なぜか俺に立つように促してきた。

 意図が分からず首を傾げつつ立ち上がると、不意打ちのようにアインさんが近づいて来て、そのままギュッと抱き着いてきた。


「あ、アインさん!?」

「カイト様の心遣い、とても嬉しいです。失礼、喜びの感情を表現するのにこれ以上のものが思い浮かばなかったので……私の体格では、抱きしめるというより抱き着くという形になってしまうのは難点ですが……カイト様が不快でなければ、少しこの状態にお付き合いいただければと……」

「ああ、えっと、不快ではないです……むしろ心地よいというか……えっと…‥」

「なるほど、では、どうぞカイト様の満足いくまで……」


 テンションが上がり切っている感じのアインさんはその言葉と共に、少し力を強めてさらに密着するように抱き着いてくる。

 まだ状況に思考が追い付いてはいないのだが、とりあえず柔らかいし、いい匂いがするし、先ほど思わず口走ってしまったように心地よいのは間違いない。

 問題があるとすればひとつ……アインさんが終了の機会を完全にこっちに委ねてしまったので、どのタイミングで終わりにすればいいのか、よく分からないという点だった。




シリアス先輩「え? ギャグ寄りの展開になると思ってたらいきなり……なんだこの、突然サトウキビで殴られたような感覚……」

???「いや、どういう感覚っすか……」

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― 新着の感想 ―
ちなみに日本の臭気覆処という地獄にサトウキビで殴られるというものがあります
[一言] サトウキビは大体中身がある竹の様なものだから、殴られだら……痛そうだな…
[一言] 更新お疲れ様です!連続で読みました!アインさんの喜びが凄いことになっててどうなるかなと思っていたら急にまた甘くなってきた! 羨ましい状態で良いな 次も楽しみに待ってます!
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