新ブランドの立ち上げ③
新設する紅茶のブランドに関しては、基本的にアニマを中心としたコネというか形態で行うので、特にリリアさんになにかをしてもらったり連絡の窓口になってもらったりということは無い。
とはいえ、まったく話を通さないままというのもどこから胃痛の種が飛んでくるか分からないので、事前にちゃんと報告をしておくことにした。
「紅茶のブランドですか、それはまた人気が出そうですが……私としては正直助かりますね。いままでもネピュラさんの細工砂糖や茶葉について尋ねられる機会は多かったのですが、案内できる先があるというのは話がしやすくなりますね」
「あっ、そういえばたまにネピュラの細工砂糖を貰ったりしてたっていってましたね」
「ええ、ネピュラさんの細工砂糖はかなり人気ですが、具体的にどこをどうと案内するのは難しくて、私が間に入って交渉することが多かったので……」
言われてみれば、細工砂糖や茶葉はネピュラにとって趣味の一貫で作っているものであり、特に販売する気などは無い様子だった。というかネピュラは基本的に金銭にほぼ興味がない。
まぁ、ネピュラはそもそも本体である世界樹からあまり遠く離れられないので、買い物などは人に頼む必要があるし、基本的に仲のいいイルネスさんに頼んで買うのも陶磁器の材料だとかそういう類程度である。
細工砂糖や茶葉の件で、リリアさん以外にもアインさんやジュティアさんなどから収入は得ているが、必要なものを必要なだけ買うといった感じだ。
ともあれ、そんな経緯もあってネピュラやイルネスさんが制作した品については、明確な窓口は無く……強いていうのであればリリアさんといった感じだった。なので、今回紅茶ブランドを立ち上げることで誘導できる先ができるのは、リリアさんにとっても利点なのだろう。
「……あれ? そういえば、リリアさん、机変えたんですか?」
「ええ、まぁ、その……最近壊れてしまったので……」
「あ~引き出しとかがですか?」
「引き出しというか……砕けたというか……ま、まぁ、概ねそんな感じです」
いつの間にかリリアさんの執務机が変わっていたので尋ねてみると、リリアさんはなんとも微妙な表情で視線を動かしながら返答してきた。砕けた? 机が? どういう経緯で……?
「まぁ、それはともかくとして名前なども考えないといけないですね。貴族家であれば家名を使えばいいですが、カイトさんの名前を迂闊に使ってしまうとそれはそれで騒ぎになりそうですし、別の名前を考えて……知っている人はカイトさんのブランドであると知っている程度にしておいた方がいいでしょうね」
「なるほど……う~ん。難しいですね」
「まぁ、焦って考える必要はありませんよ。新規の立ち上げとなると準備も多いですしね」
たしかにリリアさんの言う通り、俺は貴族の中では結構有名らしいという話は聞くので、俺の名前を使うのはややこしいことになりそうな気がする。ここはアドバイス通りに別の名前を考えるのが無難だ。
ただ、三つの山が並ぶロゴをそのまま使うのは決まっているので、山とかにちなんだ名前がいいかなぁ……まぁ、リリアさんの言う通りじっくり考えよう。
快人がリリアに新ブランドについて話をしていた頃、立ち上げの準備を進めるアニマとキャラウェイは、ネピュラが持ってきたある品を試して感心したような表情を浮かべていた。
「素晴らしい味わいだ。これは既存の砂糖とは違う特別のものなのか?」
「いえ、製法などは通常のものと変わりませんよ。原料の段階から妾が栽培したというだけで、普通の砂糖ですね。細工砂糖はたしかに見た目鮮やかですが、手間やコストも考えると割高になりやすいです。なので求めやすい普通の角砂糖もあったほうがいいと思って作りました」
「ネピュラは相変わらず凄いね~。これ、量産もできるのかな?」
「はい! 原料は成長速度などを含めて多少調整しましたが、簡単に栽培可能ですし、砂糖を生成する過程は通常の手順と変わりません。特別な手入れなども必要ないので簡単に栽培できます!」
細工砂糖はその性質的に作るのにはそれなりに高い技術が必要であり、現状ネピュラとイルネス以外には作れるものが居ないのと、貴族間で一種のステータスにもなっているので希少性を維持する意味でも販売個数は絞る予定である。
なのでネピュラはそれ以外に、買いやすい角砂糖を用意していた。
……のちにこの角砂糖に関して謎の情報網で聞きつけたメイドが家を飛び出そうとして、再び保護者に掴まって叱られることになるのだが、保護者の対応が早かったためこの場にいるものがそれを知ることは無かった。
シリアス先輩「もうひとりの紅茶マニアの方に動きが無いのは、情報網の差かな?」
???「まぁ、それもありますし、仮に知ってもジュティアさんの場合は突撃したりはせずに自制して手紙とかで伺いを立ててくるでしょうね」
シリアス先輩「界王配下幹部は、本当にマトモすぎる。やっぱ王の差か?」
???「……あ?」
シリアス先輩「い、いや、なんでも……」




