新ブランドの立ち上げ①
よく晴れた日の午前中に、アニマの様子を見ようと彼女の執務室に顔を出した時のことだった。部屋の扉を軽くノックして俺であることを伝えると、どこか嬉しそうな声で「どうぞ」と扉を開けて中に入る。
「おはよう、アニマ」
「おはようございます! ご主人様!」
尻尾を振る子犬の幻影が見えそうなぐらいに元気よく挨拶を返してくれるアニマに苦笑しつつ、視線を動かすとアニマの机の上に乗っている大量の手紙が目についた。
アニマが手紙の整理をしてくれているのはいつも通りなのだが、なんとなくパッと見た感じ手紙の量がいつもよりだいぶ多い気がした。
「アニマは手紙の整理中かな? なんか、いつもより多い気がするけど……」
「あ、はい。ご主人様に届いた手紙に関してはいつも量は変わっていないのですが、付き合いのある商会や店舗経由で届いた手紙がかなりあります」
「ふむ。何かトラブルとか?」
「ああいえ、内容はほぼどの手紙も同じで商品の問い合わせですね。問い合わせの対象は、イルネス殿とネピュラが作成した陶磁器関連が殆どですね」
「陶磁器って……あの、マーク入れて販売したやつ?」
アニマが言っているのは、以前アルクレシア帝国の建国記念祭でも少し売ったが、イルネスさんとネピュラが趣味で作った陶磁器のあまりのことである。
三つの山が並んだブランドマークを……ほとんど洒落みたいなノリで付けて売ったもので、アルクレシア帝国の出店で売った以外にもアニマ経由でいくつかの店舗や商会で売ってもらっていた。
とはいえ、元々イルネスさんたちが趣味で作ったものの余りを捨てるのも勿体ないので売っていただけなので、数もそんなに多いわけではない。
「はい。質自体は極めてよく数も少数なので、売れなければあとで値下げをすればいいとかなり強気の価格設定にしていたのですが……飛ぶように売れて、すぐに在庫がなくなったようです」
「え? そうなんだ……確かに、俺がアルクレシア帝国の建国記念祭に持っていった分も全部売れたし、見る人が見れば物の良さは分かるんだろうね」
「そうですね。事実として、王城などのある品と比べても見劣りしませんし、強気の価格設定とはいっても新規ブランドなので、他の有名ブランドに比べれば価格は低めなので、質に拘る者にとっては安価でいい品が手に入ったということでしょうね」
「なるほど、それで問い合わせが……でも、う~ん。アレって余りものを売ってるだけなんだよね?」
「ええ、本当にあくまでふたりが趣味で作った品の余りなので、量産していたわけでもないですし……どうしたものかと……」
う~ん。確かに結構悩ましい問題だ。イルネスさんやネピュラのことだから、頼めば販売用として作ってくれるとは思うけど、元々商売目的で作ってたわけでもないふたりにそう言ったことをお願いするのは気が引ける。
かといってこのまま完全放置だとしても、アニマと付き合いのある商店や商会にこれから先も問い合わせが来るだろうし、それはそれで大変か……。
「いっそ本当に正式にブランド立ちあげて商品を供給するとか? イルネスさんやネピュラに作り方だけ教えてもらって、あとは人を雇って作るとか?」
「そうですね。それが無難な気もしますね。高品質な高級志向のブランドということにして品数絞れば……細工砂糖などもあるので、紅茶関連のブランドとするのがいいかもしれませんね」
「紅茶好きな人は多いし、それはよさそうな気がするね。それこそ、茶葉とかも取り扱えたらいいけど……ネピュラの茶葉は取り扱いが滅茶苦茶難しいみたいだし、そもそも数も多くはないから販売には向かな――」
「話は聞かせていただきました!」
「――い? うん? あれ、ネピュラ? いつの間に……」
聞こえてきた声に振り返ると、いつの間にかネピュラが室内にいた。そして力強い様子で自分の胸を叩きながら口を開く。
「妾は絶対者です! 世界のどこにいようとも、妾を必要とする声は耳に届くのです! ……そして改めて、話は聞かせていただきました。そういうことでしたら妾にお任せください。そのブランドで販売する用の素人でも淹れやすく美味しい茶葉を作りましょう!」
「え? それはありがたいけど……大丈夫? ネピュラの負担になったりしない?」
「まったく問題ありません。ただ、主様が心配なようでしたら栽培も簡単にできるように作って譲渡しますので、立ち上げたブランドで栽培しても大丈夫です!」
「それなら確かに、大量生産でネピュラの負担が大きくなったりはしないか……じゃあ、せっかくだしお願いしてもいいかな?」
「はい! お任せください!!」
自信満々といった様子で頷くネピュラの頭を軽く撫でる。ネピュラは凄くて頼りになるので、たぶん大丈夫だろう。負担が大きくならないかだけ心配なので、その辺りはしっかり気にかけつつ完成を楽しみにしよう。
まぁ、茶葉を作るとなると結構時間はかかりそうだけど、ブランドの立ち上げとかアニマの方もいろいろ準備があるだろうし、焦る必要は……。
「では、明日には試作品をお持ちしますね~」
……思った以上に早いんだけど……やっぱりネピュラは凄い子だ。
シリアス先輩「おいぃぃ!? こら、親バカ!! 新しい茶葉を一日で作れる→流石ネピュラは凄い……コイツ本当に、ネピュラに対しては判定ガバガバ過ぎるだろ……」




