閑話・別次元からの胃痛
快人とシャローヴァナルのデートの終了をもって、別次元として一時的に分岐していた世界は元の次元に戻り、記憶や歴史などは元の次元のものが適応される。
基本的に分岐していた別次元の記憶を、本来の次元の元が引き継ぐことは無いが、一部例外がある。それはシャローヴァナルが記憶を引き継がせると決めた対象に関してだ。
まず、当然ではあるが快人は全ての次元の記憶を有する。そもそも、この当日だけ別次元を用いて分岐するということ自体が、季節系イベントなどで複数の恋人の予定がブッキングしたりということ避けるためのものであるため、快人の記憶は継承される。
それ以外にはシャローヴァナルやクロムエイナ、マキナにアリス、ギリギリではあるがフェイト……それらの準全能級ないし全能級の力を有するものは地力で記憶を共有できるため記憶が引き継がれる。
それ以外では、シャローヴァナルが意図して記憶を引き継がせようとした場合にも引き継ぎが行われる。今回の次元で言えば、快人と初対面の挨拶を交わしたマリンとリリアが記憶の引継ぎの対象である。
マリンの方は問題ない。快人と面識を持ったという記憶を引き継ぐだけであり、大きな問題は無い。問題があるとすれば、こういった場面においてとにかく貧乏くじを引くリリアだった。
建国記念祭が終わった翌々日の昼前、リリアは執務室で手紙の整理などを行っていた。ハイドラ王国の建国記念祭に参加して新たに交流を持った貴族なども居るため、その関係である。
リリア付きのメイドであるルナマリアも手伝いつつ、いつも通りの様子で仕事をしていると……リリアがピタッと動きを止めた。
「うん? どうしました、リリ? なにか気になることでも?」
「…………」
「顔色が悪いですね? リリが病気に罹るとは考え辛いですが、大丈夫ですか?」
現在はふたりきりであるため愛称で呼びながら、ルナマリアが心配そうな表情を浮かべる。それもそのはず、停止したリリアの顔はどんどん青ざめてきており、大量の汗まで流し始めていたからだ。
理由は単純であり、いまこのタイミングで次元の統合が行われ、リリアは別次元の記憶を引き継いだ。そう、ハイドラ王国での胃の痛い記憶を……。
「……お腹……痛い……」
「それは、精神的な意味ですか?」
「……はい」
「なぜ急に? 今日はミヤマ様は特になにもしてないように思えますが?」
リリアの胃が痛いという発言にルナマリアは首を傾げる。まずリリアは伯爵級高位魔族並みの力を持っており、なおかつ最高神であるクロノアの本祝福を受けているため、病気などには無縁でありあらゆる状態異常への耐性も圧倒的だ。
そんなリリアが胃を痛めるというのは、まず精神的なものであり真っ先に思い浮かぶのは快人の存在ではある。だが、今日は特に快人がなにをしたということも無いので、ルナマリアには理解不能だった。
「……いえ、今日じゃなくて建国記念祭でで、ですね」
「んん? 建国記念祭? それこそ、ごく平和に終わったじゃないですか? 大きなトラブルなんて無かったですし、ミヤマ様絡みでなにかがあったわけでもないはずでは?」
「そうなんですけど、そうじゃなくて……あぁ、伝わらないこのもどかしさ!!」
リリアは記憶を引き継いでいるが、ルナマリアは違う。なので、別の次元で発生したそれはもう終始胃の痛い一日を知らない。
リリアにしてみればいきなり別次元から胃痛が襲い掛かってきたようなものだが、それを説明して共感してもらうのも難しく、なんとも言えない表情で頭を抱えていた。
マキナ「あ、前回のでシャローヴァナルとのデートは終わりなんだね」
???「温泉旅行は別で約束してますからね。ガッツリやるのはその時では?」
マキナ「なるほど~」




