シャローヴァナルとの建国記念祭夜⑦
正直、シロさんの要求は無茶振りに近いと思っていた。目的も完全に分かっている上に、さっきビックリさせられたおかげで若干変なテンションにもなっているので、ここからドキドキといいムードになるのは厳しいと感じていた。
だがそれは、少々シロさんを見くびり過ぎていた。
少し待つと脱衣所と繋がる扉が開き、前を隠すようにタオルを持ったシロさんが入ってきた。髪は湯に浸からないように……おそらくは長さも変えた上でまとめられており、普段とは違った雰囲気だが、それ以上にその見た目の美しさが半端ではない。
差し込む夕日に照らされて煌めくような白い髪に、透き通る金の瞳、芸術的なまでに美しい肌と、だが初対面の時のようにあまりにも現実離れし過ぎている雰囲気ではなく、どこか柔らかさも感じる優し気な空気もあり、それがシロさんの魅力をいっそう惹きたてていた。
正直に言ってドキッとした。これまで何度もシロさんのいろんな姿は見てきていたはずだが、それでもその圧倒的な美貌は思わず言葉を失ってしまうほどだった。
本当に容姿が凄まじすぎるというか、シロさんの狙いも分かって直前に水を差されたような空気であっても、一瞬で持っていかれるレベルだ。
「どうですか? ドキドキしましたか?」
「……な、なんか、負けを認めるようで若干悔しいですが……しました。見惚れてしまったというか、絶世の美女というのはこういうのかって感じるほど綺麗で、来るって分かっていてもドキドキしましたね」
若干気恥ずかしい言い回しではあるが、シロさんはどうせこちらの心を読めるので誤魔化したところで意味はないと思えば、逆に素直になりやすい。いや、そもそも恋人への誉め言葉を抑える必要など無いのだが、若干の照れくささというのはどうしてもあるものだ。
俺の素直な感想を聞いたシロさんは、軽く微笑み嬉しそうに頷いたあとで口を開く。
「ふふ、そうですか……快人さん?」
「はい?」
「快人さんが、いま感じている美貌は……貴方がひとり占めですよ」
「ッ……あはは、それはなんというか、すごく贅沢で光栄ですね」
なんというか、最初の登場でドキッとしなくてもどのみちいまの台詞でもドキッとしたので、結局はシロさんの狙い通りの展開になっていた気がする。
けどまぁ、そんなところも含めていまのこのやり取りに幸福感を感じているのも間違いない。
「というわけで、同じようにこの入浴の間は快人さんのことも私がひとり占めですね」
「うん? いや、というか……普通に今日はデートなわけですし、ひとり占めにしているようなものでは? デート中もいまも、シロさんが最優先ですよ」
「…………」
「シロさん?」
「……これは、引き分けですね……私もドキッとさせられました」
そう言ったあとでシロさんはしっかりと口角を上げて楽し気に笑みを浮かべた。
「ではさっそく、快人さんの背中を流します。そのあとで私の背中も流してもらいます」
「定番ではありますが、恋人らしいって感じもしますね。俺が先に流してもらう側でいいんですか?」
「はい。流す側の方がハプニングを起こしやすいと思いませんか?」
「まだハプニング起こす気でいるんですか!? というか、宣言したら意味がないんですって……いや、宣言せずにやられてもそれはそれで困りますが……」
悩ましいところである。シロさんがなにかを仕掛けてくると事前に分かっていて警戒できるのは利点かもしれないが、逆にいつ仕掛けてくるんだと気が気ではなくなりそうだ。かといって知らないままで不意打ちされてもビックリするし……難しい。
まぁ、今回に限って宣言したので背中を流す際になにかを仕掛けてくるつもりだろう。
若干の不安を感じつつ、体を洗う用のスペースに移動して椅子に座る……と、その直後にあまりにもためらいの無い動きで、シロさんの手が背後から俺の体の前に回され、そのままシロさんが背中に抱き着いてきた。
「はっ!? ちょっ、し、シロさん!?」
「ハプニングです」
「いや、ハプニングじゃなくて、普通に抱き着いてきているだけでは!?」
まさかの初手……ハプニングでもなんでもない力押しのバックハグ……だがしかし、その破壊力は凄まじい。背中に伝わってくる温もりと、押し当てられる柔らかな感触は嫌がおうにも顔に血を登らせる。
「まぁ、私が快人さんに抱き着きたかったという理由が10割ではあります」
「じゃあ、もう完全にハプニングじゃなくて故意じゃないですか……」
「そうかもしれませんね」
呆れたような俺の言葉に同意しつつも、シロさんは離す気はないみたいでギュッと抱き着く力を強めていた。心なしかはしゃいでいるような……楽し気な雰囲気が伝わってくることもあって、離れるように言う気にもならず。恥ずかしさと心地よさを同時に感じつつ、シロさんが満足するまでその状態を維持することに決めた。
シリアス先輩「だ、だれかっ、早く来てくれ!! このままじゃ……いいのか! このまま私が砂糖化したら、喋るやつが誰も居なくなるぞ!! 本当にそれでいいのか!! 早くしろ、間に合わなくなっても知らんぞ!!」




