シャローヴァナルとの建国記念祭夜⑤
時間が無くてやや短めです。
シロさんの要望はある程度理解したが、理解したからと言って実行するのは極めて難しい。ただシロさんは、不退転の構えというか、ジッと無言の圧力でこちらを見つめている。
「……えっと、その、確認したいんですが結局何をすれば?」
「快人さんが私を押し倒すハプニングが欲しいです」
「……」
シロさんのこの要求がラブコメ漫画の展開から来ているのは分かっているが、すでにこうして宣言している以上実行してもハプニングではなく、それはもうただ押し倒しているだけである。
さすがにそれはハードルが高すぎるというか、仮に押し倒すにしてももうちょっとこうシチュエーションとか……アリスほどとは言わないけど、ある程度は雰囲気にも拘った方がいいと思う。
「……ふむ」
……むっ、これは……好感触!? シロさんが珍しく悩むような表情を浮かべている。恋愛漫画のハプニングを体験したいという思いはあるが、俺が先ほど考えたそういうことはもっと相応しい雰囲気でというのも一理あると考えているのだろう。
そういう理解を示すのであれば、出来れば脱衣所のやり取りをした際にも同様の反応をしてほしかったものではあるが……。
「シロさん、心を読んでいるのである程度分かっているとは思いますけど、やっぱりそういうのってシチュエーションとかも大事だと思うんですよ。確かにシロさんを押し倒したりすれば、間違いなく俺はドキドキするとは思いますが、ハプニング感が無いのはもちろん変に緊張というか意識してイチャイチャ感も薄れてしまうと思うんです。そうなっては本末転倒では?」
「……むむ……一理、ありますね」
「それにほら、本来の目的は一緒に温泉に入ることですし、いまはそっちを優先しましょう。なんだかんだで俺も温泉は楽しみでしたし、もうすでに脱衣所まで来てるので早く行きたいという思いもあります。そのラブコメのシチュエーションとかも、またやる機会はあるかもしれませんし焦って型に嵌める必要も無いと思います!」
「……」
珍しく俺の方が優勢な展開である。シロさんは悩んでいる様子ではあるが、俺の説得に心動いている感じが伝わってきた。
そのままシロさんは少し沈黙したあとで、静かに頷く。
「分かりました。確かに快人さんの言う通り、急ぎ過ぎる必要もありませんし本来の目的は温泉です。ハプニング大作戦は次の機会にすることにしましょう」
「分かってもらえたようでよかったです」
「はい。なので、今回は熱烈なハグで手を打ちます」
「……んん?」
おかしいな? どこでそういう話の流れになったんだ? シロさんはもう両手を広げてハグ待ちの態勢になってるし……い、いや、まぁ、なんとか妥協してもらえたことはしてもらえたのか?
そんな風に考えた俺は、軽くため息を吐いたあとでシロさんに一歩近づいてその体を抱きしめる。熱烈なということだったので、少し強めのハグである。
シロさんの手が背中に回され、相変わらず柔らかく温かな抱き心地に幸せな気分が込み上げてくる。
……まぁ、それはそれとして、いつになったら温泉に入れるんだ?
シリアス先輩「ぐっ、くっ、まだ……耐えられ…………これ、耐えた方が苦しみが長く続くだけでは?」




