シャローヴァナルとの建国記念祭夜①
時計塔で夕日と夜景、そして流星群を見たあとで塔の外に出る。ラグナさんの対応がよかったのか、神族の方々がフォローしてくれたのか、思ったより混乱している感じは無くてホッと胸を撫で下ろす。
「快人さん、この後はどうしますか?」
「あ、そうですね。もう夜ですし、シロさんが特に希望が無ければ温泉宿? に移動しましょうか……どこにあるか分からなですし、中も分からないので夕食を食べれないようならどこかで食べていったほうがいい気もしますけど……」
実際のところ俺は二日に渡り建国記念祭を周ったわけなので、もう十分に堪能している。アリスと行った時は出店中心に、シロさんとはイベントや大掛かりなものを中心に回ったし、これ以上どこかを周りたいという希望も無い。
シロさんの方に行きたい場所があるならそこへ行こうと思うが、特にないのであれば温泉に移動してゆっくりするのもいいだろう。食事とかが無かったとしても、マジックボックスの中にいろいろあるし問題はない。
「分かりました。確認したところ温泉宿も準備できているみたいですし、食事はそちらで食べられるので移動しましょう」
「あ、はい。了解です……確認? 誰に?」
「温泉宿の準備を依頼している相手にです」
ああ、なるほど、クロノアさんとか神族に頼んで準備してもらっていたのかな? ということは以前作ってた神域の温泉宿とはまた別ってことだと思う。
ただ、少し気になった部分はある。まず「温泉宿を準備する」という言葉……まるでいちから作ったかのような言葉だが、それに関してはやろうと思ったらできる人はたくさんいそうなので問題はない。
気になるのは温泉宿『も』という台詞である。単なる言い回しかもしれないが、ニュアンス的にまるで他にも何かを用意しているかのように聞こえた。
……温泉を用意したってことかな? そうであってほしいなぁ……。
「……シロさん、確認したいんですが、温泉宿ってどこにあるんですか?」
「この首都から少し離れた場所ですね。転移で移動するのであまり問題はありません」
「なるほど、ハイドラ王国内なんですね……ラグナさんにちゃんと話が通ってるのとか気になる部分はありますが、それ以上に重要な部分が……温泉と宿以外に何か用意してるのがあるんですか?」
「富士山ですね」
「………………んん?」
いまおかしな言葉が聞こえたな。温泉と宿以外に何を用意しているかという質問に対する答えが、富士山? そんなファンタスティックな回答があっていいのだろうか? だが悲しいかな、目の前にいるのはそんなパワーワードでも実現できてしまう存在である。
「……えっと、シロさん? 富士山ってその、山の富士山ですよね?」
「はい。快人さんが言っていたドーンと贅沢な景色です」
そっかぁ、あの会話のやつを拾っちゃったのかぁ……ラグナさんとかクロノアさん、本当に大丈夫だろうか? いや、本当に申し訳ない気持ちで一杯なのだが、まさか俺もそんな展開になるとは想像していなかった。
あくまで温泉に関する世間話の一貫だったはずだが……そっかぁ、富士山用意しちゃったのかぁ……。
「ああ、でも、シロさん? 富士山を用意したとしても、夜に温泉から富士山は見えないんじゃ……」
「見えるようにしてもらいました」
「……???」
なんだろう、さっきから頭にハテナマークが浮かびまくってる気がする。夜でも温泉から見える富士山? 距離が滅茶苦茶近いとかだろうか……いや、それだと絶景とはならないだろうし、そういう方向で調整するとは思えない。
となると、富士山が光ってるとか? というか「見えるようにしてもらった」というのは、富士山の製作も誰かに依頼したということだろうか? 富士山がどういうものか分かってて、この短時間にそれを用意できて夜でも見えるようにできる存在……まさか、エデンさんとか? う、う~ん、分からない。とりあえず不安は感じるが一度見て見ないことには始まらないので、実際に現地に行って確かめることにしよう。
シリアス先輩「状況が状況過ぎて、さすがの快人も混乱してる様子」
 




