閑話・現れた山
ハイドラ王国王城の執務室では、ラグナとリリアが真剣な表情でパーティでの対策と、今後の展開の予想について話し合っていた。
「質問への返答はある程度決まったが、更なる事態が発生した場合にどう対処したものか……」
「難しいですね。いまはともかくとして、パーティが始まってしまうとラグナ陛下が即応というのは難しくなるでしょうし、そもそも状況によっては我々では対応不可な可能性も……」
「そうじゃな。かといってエデン様が来てしまった以上、神族の方々だけで対応できるかと言われれば難しい部分もある。まぁ、ワシらが居たとしても別に対応できるわけではないんじゃが……」
当然ではあるが、国王であるラグナはパーティが始まれば忙しくなり、夕日の時の様に機転を利かせて即座に動くというのも難しいだろう。かといって、リリアはラグナを手助けしているとはいえ他国の貴族であり、ハイドラ王国にて発生した事象に直接的に介入するのも困難だ。
パーティ中になにも起こらなければそれで済む話ではあるが、あまり楽観視もできない状況であり、両者ともに頭を悩ませていた。
するとそのタイミングで、メイドのひとりがやってきた。
「陛下、失礼します。冥王様が陛下にお会いしたいと……」
「ぬっ、クロムエイナ様が!? すぐにお通ししてくれ!」
メイドの告げた言葉に驚きつつも、ラグナとリリアの表情が明るくなる。本来は来る予定の無いクロムエイナが来た理由は想像できる。
そしてそれが己たちの救いとなりうる可能性が高いことも……。
そしてほどなくして、クロムエイナが執務室にやってくる。
「ラグナちゃん、急に来てごめんね」
「いえ、ようこそおいでくださいました」
「いや、本当は来る予定なかったんだけど少し前のアレを見て、またシロがいろいろやってるなぁと……って、あれ? なんでリリアちゃんがここに?」
「あ、あはは……なんででしょうね?」
なぜかハイドラ王国とあまり関係が無い筈のリリアが居ることに不思議そうに首を傾げたクロムエイナだったが、リリアの苦笑を見て「ああ、なるほどいつものか……」と察する辺り、彼女もリリアのトラブル体質は理解している様子だった。
「……まぁ、とりあえずいろいろ教えてほしいかな? 特に、今日シロがやったこと辺りに関して詳しく教えてほしいかな」
「分かりました。最初は……」
クロムエイナは本当にいま着たばかりなので詳しい状況を知らず、ラグナとリリアから今日の出来事についての説明を受けた。
一通りシャローヴァナルによって発生したであろう事態と、その対応を聞いたあとでクロムエイナは大きくため息を吐く。
「……はぁ、なんとなくそんな気はしてたけど、シロはしゃいでるなぁ。普段はシロなりにもうちょっと影響とか考えて控えめにするんだけど、テンション上がり過ぎて自制が効かなくなってるっぽいね。まぁ、六王祭の時に少し回ったとはいえ、シロがこの手の祭りに参加する機会ってないし、カイトくんとのデートともなると……まぁ、テンションは上がっちゃうか……」
クロムエイナとしても、六王祭の折に快人と祭りを周った際にはかなりテンションが上がった自覚があるので、ある程度はシャローヴァナルの気持ちも分かった。
「まぁ、とりあえず気になるのは地球神の動きかな? とりあえずなにをしようとしているかは知りたいし、ボクが現地に行って聞いてみるよ」
「あ、ありがとうございます。本当に助かります」
クロムエイナの言葉にラグナはホッと胸を撫で下ろす。とりあえず最大の懸念であるマキナの元にクロムエイナが向かってくれるのはありがたい。
これならパーティにある程度は集中できるだろうと、そんな風に安堵した……だが、その安堵は直後に慌てて駆け込んできた騎士により、『事前に渡された地図の場所に突如巨大な山が出現した』という報告を聞いて、粉々に砕け散ることとなった。
シリアス先輩「ついに来たか、富士山……」




