シャローヴァナルとの建国記念祭夕方⑪
シロさんと夕日を見ながら……見ながら? まぁ、とりあえず夕日も見つつそれなりの時間いちゃついたが、まだ夕日が沈む気配はない。
「……シロさん変なこと聞いていいですか?」
「なんですか?」
「夕日ずっと止まってますけど、これって星とかに影響ってないんですか? いやまぁ、あったとしてもどうとでもできるでしょうが……」
例えば、地球だったりすると自転がほんの僅かに止まるだけでも、天変地異とかが起こるというような話を聞いたような覚えがある。
もちろんシロさんはほぼ全能なので、そんなものどうとでもできるのだろうが、なんとなく少し気になったので尋ねてみると……。
「問題ありませんよ。というよりは、この世界はいちおう地球神の世界を参考に作ったので様々な部分が似てはいますが、星という形では存在していません。世界の端は反対側の端に繋がっているので、体感としては星に近いかもしれませんが、世界は球状ではありません」
「星じゃない? え? じゃあ、あの太陽とか夜の月は?」
「表現するなら、太陽も月も星空も世界のシステムとして存在しているという感じでしょうか? どうイメージすればわかりやすいか……説明が難しいですが、この世界に時差などが無いのはそのためです」
言われてみれば、この世界に時差は無い。別の国に移動しようが、魔界に移動しようが昼も夜も同じタイミングだ。
イメージとしては、平面の世界にシステムとして太陽や月が存在しているような感じだろうか? よくよく考えてみれば、そもそもこの世界は三つの世界が三層に重なっている形状と最初に説明を受けたので、俺の思い描くような宇宙があって惑星があってというのとは根本から違うのだろう。
「な、なかなか難しいですけど、とりあえずそういう感じなので太陽や月を止めても問題は無いというのは分かりました。ちなみに太陽とか月に行くことはできるんですか?」
「基本的には辿り着けま無いようにしています。例えば太陽に向かって延々と飛び続けたとしても、到達することは無いという形ですが……例えばクロであるなら、その制限を無効化して到達することはできますね」
「なるほど……」
う~ん。これはもう「そういうもの」として認識するのが正しいだろう。異世界なわけだし、俺の世界の常識が当てはまらないのは、当然と言えば当然だ。
とりあえず、改めてシロさん自身の口から天変地異などの心配がないと説明を受けられたのは幸いだった。
「ところでシロさん? これ、いつまで夕日なんですか?」
「ああ、そうですね。そろそろ夜景を見ましょうか」
「え? あっ、ちょっ、まっ……」
シロさんの言葉でこの先の展開を察した俺は慌ててシロさんを止めようとしたが、時すでに遅く……世界は突如夜に切り替わった。
遅かった……星空がとてもきれいではあるが、夕日から突然切り替わった空を見ている人たちの気持ちはどんなものだろうか。
「……せっかくなので流星群にしますか」
流星群の流れる綺麗な星空である。神秘的で美しいし、ムードという意味では本当に最高かもしれない。だが、クロノアさんとかラグナさんは果たして、どんな気分でこの空を見ているのかと考えると……なんとも言えない心持であった。
それはまさに奇跡の光景だった。夕日で止まっていたはずの世界が急に動き出したかのように星空へ変わり、建国記念祭の参加者たちが戸惑ったのも束の間、空を埋め尽くすような流星群が流れ始め、その素晴らしい光景に皆息を飲んで空を見る。
事前にシャローヴァナルによる奇跡という説明があったからだろうか、これもまたシャローヴァナルによる祝福なのだと認識されたため混乱は少なく、むしろ喜んでいる者たちが大半だった。
「……リリア嬢」
「……はい」
「……星が……綺麗じゃな」
「……そうですね……本当に、残酷なほどに綺麗ですね。あの、お腹痛いので、私はこの後のパーティは欠席でいいですか?」
「止めてくれ、本当に……もう質問攻めが確定してる状況なんじゃ、ワシひとりにせんで助けてくれ。今度リリア嬢が困っておったら、絶対ワシが協力するから!!」
「……約束ですからね」
この後に予定されている建国記念祭のパーティ。この奇跡の光景に関して、ライズやクリスといった他国の王はもちろん。他の貴族たちからも質問攻めに会うだろうことを察し、ラグナとリリアは死んだ魚のような目で美しい流れ星を見ていた。
マキナ「……ん~えっとさ、富士山作っても、夜だとあんまり見えなくない?」
天然神「見えるようにしてください」
マキナ「……は?」
天然神「夜でも、綺麗に見えるようにしてください」
マキナ「………………」




