シャローヴァナルとの建国記念祭夕方⑥
シロさんといくつかの出店を周りながら祭りを楽しみ、そろそろ夕方といっていい時間になってきたので時計塔へ移動することにした。
まだ夕暮れまでにはやや時間があるが、早めに言っておいた方がいいだろう。もし、夕暮れより遅くなったりした場合には、時間が巻き戻ったりしてラグナさんやクロノアさんの胃に絶大なダメージが入るだろうし、その辺りはしっかり警戒しておかなければ……。
まぁ、いまの時間から行けば余裕で夕方には間に合うだろうし、まったく問題ない。
「……あれ? シロさん、どうしました?」
「快人さん見てください。演劇をやっていますよ」
「え? ああ、そうですね」
シロさんが立ち止まって視線を動かしたのを見て、俺も視線を動かすとたしかにそこでは演劇をやっているようで、射的の時のような大型のテントと演目について書かれた看板が見えた。
えっとこれは、アレかな? 見ていきたいってことかな?
「カップルのデートと言えば、映画の鑑賞が定番です」
「そうですね……映画じゃないですけど……まぁ、せっかくですし見ていきましょうか? 長くても1時間ぐらいでしょうし、時間的に余裕はありますからね」
日没まではまだ余裕はある。看板を見る限り1つの演目は1時間ぐらいだし、見ていったとしても十分に間に合う。
道が混んでいたりしたらアレだが、この建国記念祭中はずっと不自然なほどにスムーズに移動できるので、その辺りはフェイトさんとかによる手厚いサポートがあるのだろう。
シロさんと共に受付でチケットを購入してテントの中に向かう。丁度もうすぐ次の演目が始まるみたいで、タイミング的にはバッチリだった。
タイトルは『森の英雄』とのことで、冒険譚のような演劇ではないだろうか?
「いったいどんな演劇なのか、楽しみですね」
「そうですね。どうやら異世界から訪れた青年が、エルフ族の街を救うまでの物語らしいですよ」
「………………うん? え? シロさん? いまなんて……」
「この演劇は、異世界から訪れた青年が、エルフ族の街を救う物語で、実際にあった出来事を元に作られた話で、いまエルフ族の間で爆発的な人気があるらしいです」
「……」
いやな予感がする。これでもかというほど嫌な予感がする。考え違いであってほしい……でも、ここまでの流れが全てを証明している気がする。
シロさんが立ち止まって興味を示したのは、つまり俺を題材とした物語であるからで……これ、アレじゃないか? エルフ族の間で話題になってるっていう、俺の本を元にした演劇なんじゃ……帰りたくなってきた!? まだ始まってないのに、既に羞恥心が凄まじい!!
「大丈夫ですよ。本の内容そのままというわけではなく、かなりアレンジしたものらしいです」
「あ、ああ、そうなんですね。それならまぁ……」
あの本は、結構俺に対して配慮してくれており主人公の名前とかも別名だった。まぁ、エルフ族の間では俺であるというのは周知の事実なので意味は無いのだが、こうして演劇とかでやる分には俺と気付かれる可能性はないだろう。
……だって、そもそもあの本自体が実際に山盛りの着色によって、もはや完全に別物の話になってるし、なんなら勇者の物語みたいで、自分がモデルと思わなければ結構面白い本だった。
……ま、まぁ、それなら自分がモデルであることを意識しなければ、なんとか問題はないだろう。いや、恥ずかしいのは恥ずかしいけど……
快人とシャローヴァナルが入ったテントを見つつ、最高神たちは今後の展開に備えて会話をしていた。
「地球神様に関しては、とりあえず我らに出来ることは無いし放置するしかないだろう」
「だよね。とりあえず直近だと、時計塔かな……私の権能が効果あるなら、夕日が一番綺麗なタイミングで着くことを確定させられたんだけど、カイちゃんにもシャローヴァナル様にも効かないからなぁ……」
「演劇の終了予定時間を見る限り、そこから47分後に時計塔に到着しているのが理想ですね。付近の状況も含めて万全の準備をしておきましょう」
そんな風に今後の展開に対して想定していると、フェイトがふとライフが手に持つチラシ……演目の書かれたチラシを見て首を傾げる。
「ねぇ、生命神。その演目さ……いまやってる演目から次の演目の間だけ、やたら間の時間が長くない?」
「言われてみれば、他と比べて長いですね。もしかしたら別の出し物でもあるのかもしれませんね……」
「そっかぁ……ねぇ、時空神。私いやな予感がするんだけど?」
「……奇遇だな、我もだ」
シリアス先輩「快人とリリアが楽観視している時は上手くいかない、これはもう確定事項だよな~まったく哀れまもんだ。安定のフラグ体質ともいえるかもだけど……」
???「……先輩、ブーメランって知ってます? ビックリするぐらい綺麗に頭にぶっ刺さってますよ」




