シャローヴァナルとの建国記念祭夕方④
ハイドラ王国の建国記念祭を楽しんでいる快人とシャローヴァナルは、屋台でアイスクリームを買って近場の広場でベンチに座って休憩しつつアイスを食べていた。
混み合っている建国記念祭でも不自然に空いていたベンチもまた、神族たちの手厚いサポートによるものである。
「快人さん、せっかくですしこちらも食べてみませんか?」
「……いや、同じ味なんですけど?」
「せっかくですし、こちらも食べてみませんか?」
「……あ、はい。それじゃあ、いただきます」
まったく同じアイスを買っておきながら食べ比べを求めてくるシャローヴァナルに苦笑しつつも、なんだかんだで快人も楽しそうだ。そして、当然シャローヴァナルも今日はずっと上機嫌であり、こうして休憩していても会話が弾む。
少し前に温泉旅館の話をしたからだろうか? それともなんとなくか、シャローヴァナルは快人に向けて尋ねる。
「少し前に温泉という話をしましたが、快人さんは温泉が好きですよね? なので、尋ねたいのですが……例えば実際に再現可能かどうかはさておいて、快人さんの思い描く最高の温泉とはどんな感じですか?」
「う、う~ん。結構難しい質問ですね。温泉自体は好きですが、湯の違いが分かるほど詳しいわけでもないですし、となると差をつけるのなら……景色ですね。広大な自然が見えるというか、シロさんにはピンと来ないかもしれませんけど、こう、温泉に入りながらドーンと富士山とかを見れる景色だったりしたら、もの凄く贅沢かもしれませんね」
「ふむ、富士山、ですか?」
「ええ、えっと、説明は難しいので俺の記憶から読み取っていただけると……いや、俺も直接見たことは無いのでテレビとかの知識ですがね」
快人の告げた富士山という言葉に興味を持ち、快人の頭の中のイメージを読み取ったシャローヴァナルが、快人が理想としている温泉の風景を正確に読み取った。
もちろん快人にとってはあくまで、先ほどのシャローヴァナルの質問に答えただけの雑談の一貫であり、それ以外の意図は一切無かった。この世界では温泉はマイナーなこともあってシャローヴァナルも興味が湧いたのだろうと、そんな風に考えていた。
だが、こんな風に快人が楽観視している時には、想定とは違う方向に話が進んでいくのが常であり、シャローヴァナルは快人と会話をしながらマキナに対して呼びかける。
(地球神、聞こえますか?)
(うん? どうしたの、シャローヴァナル? 心配しなくても温泉宿ならいまから……)
(富士山も付けてください)
(富士山!? は、え? いきなりどういうこと!?)
(快人さんと贅沢な景色を楽しみたいので、ドーンと富士山が見える温泉でお願いします)
(……い、いや、富士山作るって……街中には無理だよ? だって山だし……)
(では、温泉宿は街の外でもいいです)
(いま、わざわざ王宮に行って話通してきたのに!?)
本格的温泉宿のおまけに富士山を付けてくれという、一般人が効けば宇宙に放り出された猫のような顔になることは間違いないであろう要求に対して、当然マキナからはクレームが入る。
もちろんマキナの力をもってすれば、山のひとつやふたつ作り出すのは容易だ。だが、山なんていきなり作れば大騒ぎになるし、もう一度肉塊だらけの王宮に行くのも気が進まなかった。
だが、しかし、そもそもこんな雑事を押し付けられて従っているように、今回の件に関してはマキナには弱みがある。
(そもそも貴女が私に断りなく契約的にグレーと言えるような行為を行っていたのが発端ということをお忘れなく。それを見逃す見返りとして、貴女は今回に件に対して私の要望を叶えるというのが契約です。要望の範囲までは明確にしていません。富士山も範囲内です)
(ぐっ……)
(それとも、貴女が時折快人さんの夢に干渉する形で意識を引っ張り出していることに関して、契約違反か否かをもう少し詳しく話し合いますか?)
(ふぐぅ……わ、わかったよ……用意すればいいんでしょ!!)
(はい。では、よろしくお願いします)
そう、今回マキナが大人しくシャローヴァナルの言うことを聞いているのは、たびたび快人の夢に干渉して、マキナとして交流していることがシャローヴァナルにバレたからである。
快人が夢の中の出来事を思い出せないようにしていたりと、対策はしていたのだが……結局バレてしまったため、マキナは諦めたような声で追加の要望を了承した。
もちろん当然のことであるが、その結果として突如ハイドラ王国内に富士山が出現するという事態になるため、間違いなくラグナとリリアの胃は絶大なダメージを受けることになるだろうが……。
天然神「宿のオプションに富士山追加で」
狂神「ふぁっ!?」
シリアス先輩「マジでマキナが振り回されているあたり、さすがの天然神……そして相変わらず余波に晒される胃痛戦士」




