シャローヴァナルとの建国記念祭夕方③
活動報告にて、キャララフ公開第二弾を掲載しました。
ハイドラ王国王城にて、異様な気配を察知したラグナとリリアは念のため王城の外に出た。だが、やはり先ほどの一瞬以降あの異質な気配は感じ取ることが出来ず、ふたりは顔を見合わせて首を傾げた。
「どうされました、陛下?」
「ああ、いや、なんでもない。気にせず警備に戻ってくれ」
「はっ!」
入り口付近を警備していた騎士に声をかけられたラグナがなんでもないと返答し、王城の中に戻ろうとしたタイミングで唐突にその場にひとりの少女が現れた。
機械の片翼を持ち、虹色の目をした少女……マキナは、文字通りなんの前兆も無くその場に現れた。無論マキナに転移阻害など通用するはずもないので必然ではあるのだが、知らぬものからしてみれば異常事態である。
「なっ!? 侵入者!!」
「……は?」
「「「――ッ!?」」」
咄嗟に警護の騎士が反応したのは無理からぬことではある。だが、その直後にマキナから空間が軋むほどの圧が放たれ、リリアとラグナも含めた三人は息を飲んだ。
本能的に理解できた。いま、目の前にいるのが明らかに次元の違う存在であることを……。
「不敬だよね? なんで、肉塊が許可も得ずに私に話しかけてきてるの? シャローヴァナルやクロムエイナとの約束もあるから、一回は大目に見るけど、次は無いよ?」
「……あ、あの……発言しても、よ、よよ、よろしいでしょうか?」
「うん? いいよ、リリア。なにかな?」
恐る恐るといった様子でリリアが声をかけると、マキナは放っていた圧を引っ込めた。基本的にマキナは、我が子と呼ぶ者たちほどではないが、快人の友人や恋人にはある程度寛容だ。いや、友人と恋人では天と地ほどの対応の差があるが、それでもそれ以外の対象に比べればまったくマシな部類である。
ともかく、リリアやラグナに関しては、快人と交友のある者ということでいきなり声をかけられても不快感をあらわにしたりはしない。特にリリアに関しては、立場に共感できることや快人の恋人であることも合わせて大抵のことは許すだろう。
そんなマキナに対して、リリアは緊張した様子で問いかける。
「……も、もしかして……エデン様……でしょうか?」
「うん? あれ? ……あっ、そっか! 愛しい我が子の家にはこの姿を見せに行ったけど、リリアのところにはいってなかったね。そうだよ。まぁ、この姿の時はエデンじゃなくてマナって呼んでね」
「は、はい。畏まりました、マナ様」
リリアがマキナに話しかけている間に、ラグナは震えている騎士を下がらせて己は片膝を突いて首を垂れる。リリアがエデンと発言したことで、彼女の対応は決まった。ラグナが知る中でも格別にヤバい存在であるため、迂闊に発言はできず、リリアに任せる形になる。
リリアも、この場でマキナ側からの印象がある程度友好的なのは己だけだと自覚があるので、胃の痛みを堪えながら対応していた。
「それで、マナ様。本日はどのようなご用件で……」
「ああ、実際の用件はそこの国王になんだけど、リリアに伝えるよ。シャローヴァナルに頼まれて『本場の温泉宿』作るから、一部土地使うね。終わったら戻すし……まぁ、そもそもこの次元はアレだから問題はないとは思うけど、いちおう先に言っておくね」
「か、畏まりました。場所などは……」
「ああ、それはこっちで勝手に決めるから大丈夫。じゃ、そういうわけだからよろしくね」
「はひぃ……」
言いたいことだけを言ったあと、マキナは軽く手を振って姿を消した。それを確認した後でラグナはゆらりと幽鬼のような動きで立ち上がり、同時にリリアも壊れたブリキ人形のような動きでラグナの方を向く。
「……だ、そうです」
「……神族が対応できない上に、なにをするか分からない存在……勘弁してくれ……あと、オンセンヤドってなんじゃ? オンセンとは、あの風呂の温泉のことか?」
「う、う~ん、おそらく温泉に入ることのできる宿だとは思うのですが……本場と仰られていたので、我々が知るものとは違うのかもしれませんね」
「常識的な規模であってほしいのぅ……」
「……ええ、本当に」
そう言って顔を見合わせたふたりは、ほぼ同時に無意識のうちにお腹を押さえていた。
シリアス先輩「衝撃の新事実……マキナは、快人の友人に対してはまだ他と比べて柔らかい対応だった……」




