シャローヴァナルとの建国記念祭夕方②
ハイドラ王国建国記念祭のセレモニー会場では、予定していた催しが全て終わり、国王であるラグナとリリアも王城に戻ってきていた。
この後は少し時間を空けて王城でのパーティが行われるが、そこまではひとまず期間が空く。
「……ふぅ、とりあえずセレモニーは乗り切ったのぅ。幸い神族の方々の準備が万端だったおかげで、こちらが対応する必要のある事態は少なかった。いや、そもそも、対応しようにもどうにもならんことはあったが……」
「快人さんとシャローヴァナル様が、最初からセレモニーを見に来る気が無かったのも幸いでしたね。少なくともセレモニー中になにかが起こるという事態は避けられました……あの、ところで私はいつまで?」
「最後まで追ってくれ、たのむ。愚痴を溢せて共感できる相手が近くに居るだけで違うから……」
「まぁ、気持ちは分かりますが……」
結局今日一日ラグナの相談役のような立場で近くにいることになったリリアだが、突発的な事態に振り回される気持ちは彼女もよく分かっているので、なんとも言えない表情で苦笑していた。
「……まぁ、本当に神族の方々は厳戒態勢を敷いてますし、よほどのことでなければ我々が動く必要などはないでしょう。というか、そもそも最高神様を含めた神族で対応できない事態を、私たちがどうにかできるとも思えませんし……」
「ははは、そうじゃな。そもそも、アレだけ警戒している神族をもってしても対応できない事象などが想像できんな」
「そうですね――ッ!?」
「――なんじゃ、この気配は!?」
穏やかに会話していたリリアとラグナは、突如表情を変えて青ざめた顔で窓の外を見た。それは、あまりにも異質な気配だった。
いま一瞬、世界そのものが揺れたと錯覚するような……それでいて一切魔力は感じない。ただ、なにか異質な存在が現れたとしか表現できない感覚。さらにその気配も一瞬のことで、すぐに何事も無かったかのように消え去った。
「……初めての感覚じゃ、いまのはいったい?」
「分かりません。ただなんというか、異様に不安な気持ちになるのはなぜでしょう……」
不安そうな表情と声で呟きながら、ふたりはしばし窓の外に視線を向けていた。
ハイドラ王国首都の端、人気のない小さな広場……そこに現れた存在は、大きなため息を吐いた。
「……はぁ、もう、だからこの世界は小さいんだよ。だいぶ抑えたつもりだったけど、私の存在圧で歪みかけたし……シャローヴァナルに文句言われないといいけど……いや、そもそも、私がこうしてきてるのはシャローヴァナルのせいなんだけど……はぁ、なんで私がこんなことを……」
機械仕掛けの片翼を動かしながら、現れた存在……異世界の神たるマキナは大きなため息を吐いた。そして、チラリを視線を動かして、距離を取ってこちらを見る神族たちに興味無さそうな目を向けた。
「……生命神、分かってるとは思うけど無理だからね。私の力でも、全く歯が立たない相手だから……」
「ええ、シャローヴァナル様のサポートは一時的に時空神に任せて、それ以外で来ましたが……数が居たところで意味がある相手ではありませんね」
緊張した面持ちで呟く運命神に生命神も同様の表情で頷いたあとで、静かにマキナに近付いて片膝を突いて頭を下げた。
相手はシャローヴァナルと同格の世界創造の神であり、その力も文字通り格が違う。用件を問いたいが、迂闊に話しかけることすら許されないレベルの相手であり、マキナ側のリアクションを待つ他なかった。
「……発言していいよ」
「それでは失礼して、地球神様。今回はどのようご用件での来訪か確認してもよろしいでしょうか?」
「シャローヴァナルに頼まれたんだよ。交換条件付きとはいえ、私にこんな雑務をさせるなんてひどい話だよね……まぁ、丁度いいや。持ってきたこれ設置するの手伝ってくれない? こっちの世界であんまり私が権能を振るうのも問題だしね」
「これは……なるほど……しかしどちらへ?」
「さぁ、とりあえず、王宮行って断りだけ入れてくるよ。肉塊と話すのは不快だけど……あっ、リリアが居るね。じゃあ、リリアに断り入れればいいかな……」
そう言って呟くマキナに対し、ライフの隣に並ぶように膝を突いたフェイトが尋ねる。
「ところで、地球神様。一点だけ質問をしてもよろしいでしょうか?」
「うん? あっ、えっと、愛しい我が子の恋人だったね……フェイトだったっけ? いいよ、愛しい我が子と交流が深い相手なら、私もある程度の配慮はするよ。それで、なに?」
「いえ、いままでとはお姿が違ったので気になりまして……」
「ああ、この体ね? 最近作った体で、シャローヴァナルの許可を得てある程度本来の私に近い力まで調整したんだよ。いや、別に楽園で来てもよかったんだけど、シンフォニアの建国記念祭もアルクレシアの建国記念祭も、こっちで来てたし、ハイドラ王国の建国記念祭もこれでいいかなぁって……」
「なるほど、解答いただき、感謝いたします」
「気にしなくていいよ~。愛しい我が子とこれからも仲良くしてあげてね。じゃ、私はちょっと王宮行ってくるから……」
そう言ってマキナは姿を消して、ひとまずフェイトとライフは胸を撫で下ろした。
シリアス先輩「あれ? フェイトに対しては対応が柔らかいのか……」
マキナ「そりゃそうだよ! 私は愛しい我が子の母だよ? 我が子の恋人には優しくするよ。ほら、リリアにも優しいでしょ? まぁ、リリアに関しては、振り回される立場に共感してるのもあるけど……」




