シャローヴァナルとの建国祭午後⑩
マリンさんとエインガナさんの因縁に関して教わったとはいえ、ライフさんの言う通りこの場でなにかが起こるわけでもない。
次のバンドが壇上に上がって再開したライブを再びシロさんと一緒に見る。
「ライブって初めてですけど、迫力があって楽しいですね」
「ふむ、快人さんはライブが好きなのですか?」
「う、う~ん、どうでしょう? 音楽は普通に好きですが、特別好きかと言われれば……祭りの雰囲気的なノリもあるでしょうしね」
音楽は好きだし、CDなども買っていたが……ライブとかには行ったことは無かったし、もの凄く好きだというわけでもない。ただいまは、かなり楽しい。
ライブ自体が初めてということもあるが、祭りの雰囲気と……シロさんという恋人が近くにいて、一緒に楽しめているのも大きいと思う。
シロさんもなんだかんだで楽しんでくれているのは伝わってくるし、好きな相手と楽しい気持ちを共有できるというのは幸せなものだ。
実際、以前に人界でデートした時よりも今の方が気分的にかなり楽しめている気がする。いや、もちろんあの時は恋人ではなく、現在は恋人同士であるというのもあるのだが、それを抜きにしてもシロさんに大きな変化が訪れているのが大きいだろう。
シロさんは精神的に大きく成長したことで、以前に比べて格段にいろんなことに興味を持つようになり、結果としてそれが、ふたり一緒にいろんなことを楽しめるということに繋がっている。
もちろん、マリンさんとエインガナさんの関係のように、興味の無さそうなことも多いが……その辺りは、嗜好の範囲内というべきか、誰だって興味のある話題と無い話題というのはある。
ともかく、なんというか、最近のシロさんとのデートは本当に『一緒に楽しめている』という感じが強くて、なんか嬉しいというか、幸せを実感できる気分である。
シロさん自身いろいろ俺とのデートのために勉強してくれていたりして、時々抜けているというか天然なところはあるが、シロさんのそういう真っ直ぐなところは本当に好きだなぁと、そう感じる。
まぁ、もちろん気恥ずかしいので本人にはなかなか言えないが……。
「……ほぅ」
「……あっ」
無意識というものはある。分かっていたはずなのに、シロさんが心を読めるというのを忘れて考え込んでしまっていた。本来心の中の声など、他者に聞こえるものではないのだし、シロさんが心を読んでいるのも一緒に居る時以外はさほど気にしたことも無かったので、うっかりしていた。
シロさんが心を読めるのは知っているし、内容的にも読まれても問題はまったく無いのだが……なんかこう、心の中でシロさんに惚れ直してるようなことを考えていたことを知られ、その上で真横にシロさんが居ると考えると滅茶苦茶恥ずかしい。
「ほほぅ……快人さんは、そんな風に考えていたのですね」
「あ、いや……ま、まぁ、間違いではないんですが……その、ちょっと気を抜いていたというか……」
嬉しそうだ。滅茶苦茶に嬉しそうだ。珍しく分かりやすいほどに笑顔になってるし、ウキウキとしている感じがここまで伝わってくる。
「そ、そのシロさん。落ち着きましょう、とりあえずいまはライブを……」
「問題ありません。いま世界の時間は止まっているので、ゆっくり話ができますよ?」
「それは反則過ぎませんか!?」
「はて? さぁ、快人さん。さっき考えていたことをもっと口に出したり、私を抱きしめたり、キスしたり、いちゃいちゃしていいのですよ? というかしてください」
ニコニコのシロさんが両手を広げて「さぁ、抱きしめてくれ」みたいな顔をしているが、いくら時間が止まっているとはいえこんなに人が居る中で抱きしめるのは恥ずかしいんだけど!?
シリアス先輩「おいばか、やめろ……そこで切ると、次話は一話かけていちゃつきますって宣言してるような……やめろ……」
 




