シャローヴァナルとの建国祭午後⑨
エインガナさんの方はどうかはわからないが、少なくともマリンさんの方がエインガナさんをかなり意識しているのは理解できた。しかも割と強めの対抗心って感じである。
疑問に思いつつドラゴンソウルの演奏が終わって、次の演奏の準備までの間にシロさんに尋ねてみた。
「シロさん、マリンさんってエインガナさんとなにか因縁がある感じですか?」
「さぁ」
シロさんから返ってきたのは、首を傾げての興味の欠片もなさそうな返答だった。そうだよな、シロさんがその手の情報に興味を持つとも思えない。いや、以前と比べれば格段に広くいろんなことに興味を持ってはいるのだが、その手の確執だのなんだのといったものには、興味が無さそうなのは相変わらずだ。
これに関しては聞く相手が悪かった。後日改めてアリスとかにでも聞こうかと、そう思ったタイミングでシロさんが視線を動かして口を開く。
「生命神」
「はっ!」
「快人さんの質問に回答しなさい」
「畏まりました」
自分は知らないし興味もないので、知ってそうな相手を呼ぶ……実に合理的な判断。こういう部分を見ると、本当に以前と比べて格段に応用力が付いているというか、シロさんの成長を感じられる。
それはともかくとして、どうやらライフさんが俺の質問に答えてくれるらしい。スカイさんやガイアさんがそうだったように、たぶんマリンさんもライフさんの直属の部下なのだろう。
「ライフさん、お手間をかけてすみません」
「いえ、お安い御用です。それで、大海神についてでしたね……確かに彼女は大海竜に強い対抗心を抱いています。互いに海に深く関わる存在でありつつ、大海竜の方が知名度という点では上なので……あの子は目立ちたがり屋な部分があるので、ライバル視しているのでしょう」
大海竜というのは間違いなくエインガナさんを指す言葉だろう。そして大方の予想通り、人界……というかハイドラ王国で海の神のように扱われているエインガナさんが気に食わないらしい。
「彼女はなんと言うか、間違いなく優秀なのです。上級神の中でも上から数えた方が早い実力がありますし、能力なども申し分は無いのですが……天空神や大地神と比べるとやや劣っていたり、神界に海が存在しない関係上権能を行使できる機会がほぼ無かったり、上級神なので人界とは関わりが薄く大海竜の方が有名だったりと……どうにも、いまひとつ目立たない部分がありまして、それが原因なのか目立ちたい、人に注目されたいという欲求が強い性格をしているんですよ」
「あ~なるほど、それで対抗心を抱いているエインガナさんが、多くの注目を集めてるのを見て気に入らない感じの表情を……」
「ええ、本人も逆恨みのようなものだとは自覚しているので、基本は抑えていますが……大海竜の方もまた。海に関することに関してはかなりプライドが高く、遭遇すると一触即発の煽り合いに発展しますね」
なるほど、ライフさんの説明を受けてある程度ふたりの関係性が見えてきた。マリンさんは自分に近しいというか、魔界において海の支配者のようなポジションであり、知名度も高いエインガナさんに嫉妬と対抗心を抱いている。
そしてエインガナさんは基本落ち着いた方だが、海に関することに関してはプライドが高く出会えば喧嘩に発展するというわけだ。ただ、ライフさんの口振りでは互いに抑えるべきところは抑えているみたいで、煽り合いであって殴り合いではなさそうな感じだ。
「まぁ、自己顕示欲が強いといいますか、自分に注目してもらいたいのでしょう。髪の色を変えているのも、その辺りが原因でしょう」
「うん? マリンさんって、髪の色を変えてるんですか?」
「ええ、彼女の本来の髪の色は暗い青色で……あまり目立たないので、明るい金髪にしています。まぁ、とはいえ彼女も間違いなく上級神の中でも優秀な部類ですし、分別もありますので感情に任せて暴走するようなことはありません。仮にいま目の前に大海竜が現れても、シャローヴァナル様をサポートするという最優先の使命がある以上、無視するでしょう」
「なるほど……」
フェイトさんいわく、ライフさんは一見ゆるそうに見えて、神族としてのルールとか価値観に関してはかなり厳し目であり、最高神三人の中で比較するなら最も部下に厳しいらしい。
そのライフさんが、目立ちたがり屋という部分以外に関しては褒めており、信頼している様子なので実際にマリンさんはかなり優秀な方なのだろう。
しかし目立ちたがり屋か……まぁ、当然ではあるが神族にもいろいろな性格の人が居るものだ。
シリアス先輩「なるほど、そういう関係か……」
???「ええ、ライフさんが言ってる通り、本人もエインガナさんへの嫉妬は逆恨みだと自覚してて抑えようとはしてるんですが……ニーズベルトさんの過去話でもあったように、エインガナさんって自分が海に関することだけは滅茶苦茶マウント取ってくるので、今回のようなほかに優先すべきことがある状態以外で、遭遇すればほぼ確実に喧嘩になりますね」
シリアス先輩「そういえば、エインガナも『魔界の海の支配者は私だ』的なこと言って、マグナウェルを見下すようなマウント発言をした結果、ニーズベルトにボコボコにされてたな……」
 




