シャローヴァナルとの建国祭午後⑦
恒例のキャララフ公開、14巻第一弾を活動報告に掲載しています!
きっかけはそう、ハーモニックシンフォニーが終わった直後にまで遡る。魔界の南部にある主に竜王配下たちが集まることが多い地域の一角、幹部である四大魔竜がよく利用する石造りの塔の中では人化したニーズベルトが少々変わった形状の魔法具をテーブルの上に置いていた。
「うん? 変わった形状の魔法具だな?」
「ああ、ファフニルか……これはセーディッチ魔法具商会が最近新たに開発した音楽を保存することができる魔法具だ。まだ市場には流通していない試作段階の品だが、トーレに無理を言って譲ってもらった。彼女にはまた改めて礼をせねばな」
「トーレというと、冥王配下の……親しいのか?」
「ああいや、我ではなくアグニが親しくしているので、その伝手で紹介してもらった形だ」
声をかけてきたファフニルに軽く説明しつつ、ニーズベルトは魔法具を起動させる。すると魔法具からは派手なロックの曲が流れてきた。
「綺麗に聞こえるものだな……しかし、エインガナはともかく、お前はそんなに音楽好きだったか?」
「いや、好み云々の問題ではない。どんな形や切っ掛けであれ、一度教えを乞うた以上は、半端な状態で終わらせるのは我の主義に反する。少なくとも、エインガナがある程度納得するだけの見識を身につけるのが礼儀というものだ」
ニーズベルトは向上心の塊であり、ハーモニックシンフォニーでいろいろとエインガナに音楽について教わったことを切っ掛けに、ある程度音楽への理解を深めようとしていた。現在ロックを聞いているのも勉強の一貫である。
「ただ、ハーモニックシンフォニーなどで聞く機会の多かったものより、我はこのロックというジャンルの方が好みではある。クラシックなどについて詳しく教えてくれたエインガナには悪いが……」
「いえ、音楽に貴賤はありません。私はロックも好きですよ」
「来ていたのかエインガナ……偶然3人そろうのは珍しいな」
聞こえてきた声にニーズベルトとファフニルが振り返ると、そこには微笑みを浮かべたエインガナが居た。どこか上機嫌に見えるのは、仲の良いニーズベルトが音楽に関心を持ってくれたのが嬉しいのかもしれない。
「ニーズベルト、提案なのですが……」
「うん?」
「実際に音楽を演奏してみるというのはいかがですか? 聞いたり学んだりすることも素晴らしいですが、実際に己の手で演奏して体験することは、非常に大きな経験になりますよ」
「ふむ……一理ある。知識も重要ではあるが、実践もまた重要か……」
「ええ、そうですとも! ニーズベルトはロックが好みのようですし、ロックを演奏してみませんか? 3ピースバンドという形式もありまして、3人でも十分本格的な演奏が可能ですよ」
「興味深いな」
「……うん? 3人?」
エインガナが告げた言葉に、ニーズベルトはそれも有りかと乗り気な様子で頷き、ファフニルはなにやら嫌な予感を覚えつつ戸惑った表情を浮かべていた。
だが、そんなファフニルの様子に気付くことは無く、ニーズベルトとエインガナの話は盛り上がっていく。
「では、エインガナ、指導を頼む」
「ええ、任せてください。形から入るのも重要ですし、バンドを組みましょう! ニーズベルトは苛烈で力強い演奏が似合いますし、ドラムなどいかがでしょう? メロディラインの軸となるギターは少々難易度が高いので私がボーカルと兼任します。その上で、ファフニルがベースを行えばバンドとして十分な体裁を保てますよ」
「……まて、おかしくないだろうか? 物凄く当たり前のように、私がメンバーに加わっているのだが……私はそんな話を了承した覚えは……」
「ふふ、熱くなってきたな。どのような形であれ、学び挑戦するというのは血沸く……やるからには全力で取り組もう!」
「ええ、お任せください。すぐにどこへ出しても恥ずかしくないだけの演奏ができるようにしてみせます」
「……いや、だから、貴様ら私の話を……おい!?」
こうして、ノリノリのエインガナとニーズベルトによって、新たなるバンド『ドラゴンソウル』が結成され、完全に巻き込まれる形になったファフニルは、なんとも言えない表情で胃を押さえていた。
シリアス先輩「まさか、こんなところにも胃痛戦士が隠れていようとは……」




